『ハッシュパピー バスタブ島の少女』

ベン・ザイトリンの29歳にして長編デビュー作となる本作品は、サンダンス映画祭のグランプリと撮影賞を受賞し、カンヌ国際映画祭でもカメラドール(新人賞)を獲得、果ては主人公を演じたクヮヴェンジャネ・ウォレスが史上最年少でアカデミー賞主演女優賞にノミネートされるという快挙を成す。ほぼ前情報を入れずにいたので、もっとファンタジー色の強い作品なのかと思っていたら全編手持ち撮影の、思いのほか骨のある物語だったことに驚いた。しかもその意外さが鑑賞前の期待をはるかに上回る力強さを持って、少女ハッシュパピーの“生きる”ことの選択を描きあげており、彼女が世界と対峙する姿に感涙する。
物語世界の設定など詳細は説明されない部分も多く、かなり唐突に展開してゆくところもあって、そんな設定なのか!と驚かされる場面もある。理屈で観てしまうと、そのご都合的展開につまづいてしまうかもしれない。けれどもこの物語にとってそんな世界設定は些末なことにすぎず、少女ハッシュパピーの“生命”を最大の指針にしてストーリーは力強く前進してゆく。この、ディティールを理詰めしてゆくことで物語を形成してゆくのではなく主人公の“生命力”で物語を語ってゆく様は、宮崎駿の『崖の上のポニョ』を思わせる。そして行き詰まりを固い意志をもって“楽観”で越えてゆく人々の姿にエミール・クストリッツァ作品を観る思いをした。
この作品を観ながら、“世界”と対峙するときに必要なのは“ファンタジィ”なのだ、と改めて考えていた。ファンタジィの想像力こそが“世界”と戦うことのできる唯一の武器なんだと、思う。もちろんそんな偏った作品ではないのだけれど。


4月20日 公開
原題:Beasts of the Southern Wild
監督:ベン・ザイトリン
出演:クヮヴェンジャネ・ウォレス/ドワイト・ヘンリー/リービ・イースタリー/ローウェル・ランデス/パメラ・ハーパー/ジーナ・モンタナ
脚本:ルーシー・アリバー/ベン・ザイトリン 原案(戯曲):ルーシー・アリバー 撮影監督:ベン・リチャードソン/アレックス・ディガーランド 編集:クロケット・ドゥーブ/アルフォンソ・ゴンサルヴェス 音楽:ダン・ローマー/ベン・ザイトリン

【ストーリー】
世界で一番美しい島、通称“バスタブ”に父親ウィンクと暮らす6歳の少女ハッシュパピー。ある夜、百年に一度の大嵐が島を襲い、ハッシュパピーの大切なもの全てをさらっていった。一晩にして変わり果てたバスタブ島。島は嵐によって水没の危機に晒されていた。沈みゆく島から離れずに生きると決めたハッシュパピーとウィンク。そんな中、ウィンクが重病に倒れてしまう。

配給:ファントム・フィルム
2012年/アメリカ/93分/ビスタ/5.1ch/日本語字幕翻訳:佐藤恵
(C)2012 Cinereach Production, LLC. All rights reserved.

公式サイト http://www.bathtub-movie.jp

ミニパラ http://www.minipara.com/movies2013-1st/bathtub/

ランキングに参加しています。もしよろしければクリックして頂くと嬉しいです。
人気ブログランキングへ
にほんブログ村 映画ブログへ
にほんブログ村