『巨神兵東京に現わる』

「館長 庵野秀明 特撮博物館 ミニチュアで見る昭和平成の技」での展示物の一部として製作された短編でありながら、結果として2011年3月11日の震災から現在そして未来さえも見据えた壮大な作品となっている。
製作主旨は「特撮博物館」の展示物なのでミニチュアを主とした特撮作品であること。そのため樋口真嗣監督は「3DCGを一切使用しない」という枷を自ら設け、一部ロケーション撮影パートを除く全てにおいてミニチュアもしくは代用品による素材撮りを行い、デジタル合成と加工にて仕上げている。この工程における特撮技術への今だ飽くなき探求と創意工夫は、上映ブース以降のメイキング映像を含む展示に詳細があるため、これは是非とも訪館して堪能して欲しい。

企画の発端がミニチュア特撮である以上、巨大な異形のモノが襲来する映像になることは必然で、その企画者が庵野秀明であれば「風の谷のナウシカ」に登場する巨神兵がモチーフとなることも必至。果たして作品は「創造するだけが神ではない」とする終末と破壊の美学に満ちてゆくこととなる。けれどもこの短編映画が、ただ終末感と破壊だけのデモンストレーション映像に終始せず、震災を経て未だ収束していない2012年現在の日本の空気を濃密に内包してみせたのは、庵野秀明による脚本と、その脚本世界を具現させた林原めぐみのモノローグの秀逸さが大きい。館内に展示されている資料には絵コンテもあり、そこに記されているダイアローグを見ると、企画当初は一人の女性を中心に複数の登場人物が想定されていたことが分かる。けれどもどういう経緯か、最終的には完全一人称のモノローグだけで世界の終末とそれに対峙してゆく物語が語られてゆくようになっている。このあたりの改変の過程と初期脚本についての詳しい資料に興味を覚えるが、それはおそらく展示会期終了後を待たなくてはならないのだろう。
いずれにせよ、この短編映画は今この2012年夏にこそ観ておくべき作品である。上映形態の特殊性から遠方などの理由により鑑賞が困難な場合も多いだろうけれど、「特撮博物館」としての催し全体がとても魅力あふれる企画なので、できる限り訪館して欲しい。


7月10日 公開(「館長 庵野秀明 特撮博物館 ミニチュアで見る昭和平成の技」にて)
監督・絵コンテ:樋口真嗣
企画・脚本:庵野秀明 巨神兵宮崎駿 声:林原めぐみ 監督補・特殊技術統括:尾上克郎 美術監督三池敏夫 美術:稲付正人 特殊効果・操演:関山和昭 撮影:鈴木啓造/桜井景一 巨神兵操演:村本明久 編集・視覚効果:佐藤敦紀

2012年/日本/9分03秒/カラー/シネマスコープサイズ
(C) 2012 二馬力・G

「館長 庵野秀明 特撮博物館 ミニチュアで見る昭和平成の技」
2012年7月10日(火)〜10月8日(月・祝)
京都現代美術館 企画展示室1F・B2F
公式サイト http://www.ntv.co.jp/tokusatsu/

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