『冷たい熱帯魚』

園子温監督最新作。『ちゃんと伝える』を間にはさんで『愛のむきだし』と対極にある作品とのこと。1993年の埼玉愛犬家殺人事件をベースにして幾つかの事件を混ぜて創作された物語で、その猟奇殺人描写から【R-18+】(18歳未満の入場・鑑賞を禁止)となっている。終始何の救いもない物語だし、気楽に観られる作品でもないけれど、間違いなく傑作であり、現代日本をある一面において代表する作品といえる。


1月29日 公開
監督:園子温
出演:吹越満/でんでん/黒沢あすか/神楽坂恵/梶原ひかり/渡辺哲

【ストーリー】
小さな熱帯魚店を営む社本(吹越満)の家庭は、娘・美津子(梶原ひかり)と若い後妻・妙子(神楽坂恵)の確執から不協和音を奏でていた。ある日、社本は娘の万引き事件を助けてくれた愛想の良い村田(でんでん)と、その妖艶な妻・愛子(黒沢あすか)と知り合う。村田の高級熱帯魚の輸入を手伝うこととなった社本はやがて、想像を絶する破滅へと導かれて行く…。

配給:日活
2010年/日本/146分/35mm/アメリカンビスタ/DTR-SR/R-18
(C)NIKKATSU

公式サイト http://www.coldfish.jp/index.html

高級熱帯魚への投資を持ちかけて金だけ巻き上げてから殺し、山小屋の浴室で細かな肉片にまで解体して骨は焼却するという描写は、これでもかという血と肉片の物量をもって描かれる。吹越満が演じる主人公・社本が事件に巻き込まれるようになってからは映画世界が狂気のどん底に堕ちてゆき、暴力と血と肉で満たされてゆく。
それなのに何故か笑えてしまう。暴力も狂気も度を越えると笑えてしまうのだ。そしてこの「笑えてしまう」ことの大きな要因として、主犯の村田を演じるでんでんの怪演がある。劇中での独特なセリフ回しを始めとする村田の存在そのものが笑いと狂気の境界を行き来していて、物語をブラック(コメディ)な方向へと導いてゆく。

そしてもうひとつ、園子温作品に欠かせない要素として「父親」というモチーフがある。本作品でも主人公・社本は再婚を快諾できない娘から拒絶されており、村田との関係も物語の進行に従い仮初めの父子へと変化してゆく。また明示はされないが村田にも父親との間に幼少時のトラウマらしき事象があったことを匂わせている。
そして子が父を越えようとすること、父が子へ絶対の権力を提示してみせることによって物語は結末へ向かってゆくのだけれど、やはりここにも物語的な救いは存在しない。

作品全編を使って描かれる暴力とセックスと狂気、それらがある限度を越えたときに「笑えてしまう」感覚、そして確立されないもしくは不在の父性。そんな現代日本の少なからぬ側面を抽出して、宣伝文句をかりるなら「猛毒エンターテイメント」に仕立てる園子温監督の手腕に感服する。

ミニパラ
http://www.minipara.com/movies2010-4th/coldfish/

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