『カールじいさんの空飛ぶ家』

ディズニー/ピクサーの最新作であり、
記念すべき長篇10作品目、
ついでに初の3D作品。(ただし、試写は2Dでした)
面白かったし、
とても良くできている作品だと思うけれど、
それだけと言ってしまえば、それだけな印象。
もちろん、
面白くて良くできた作品を成立させることは大変なことだし、
それだけで充分なのだが・・・。


12月5日 公開
原題「UP」
監督:ピート・ドクター
共同監督:ボブ・ピーターソン
出演:エドアスナー/ジョーダン・ナガイ/ボブ・ピーターソン

【ストーリー】
少年時代に出会い、青年時代に愛を誓い、二人三脚で同じ年月を重ねてきたカールとエリー。二人は素敵な我が家で、老夫婦になっても愛情に満ちた日々を過ごしていました。しかし、エリーは病に倒れてしまい、ついにカールはひとりぼっちに…。78歳のカールじいさんは、亡き妻エリーとの思い出がぎっしりつまった小さな家で、ひとりっきりで暮らしています。彼には「いつか叶えよう」と、子供時代にエリーと誓った夢がありました。それは、二人で素晴らしい冒険の旅に出ること…。しかし、その夢は叶うことなく、愛するエリーを亡くし、住み慣れた我が家まで奪われそうになった時、カールは一生で一度の旅立ちを決意します。彼に残された唯一の宝であるマイホームに無数の風船をつけ、カールじいさんは家ごと空高く舞い上がりました。空へ、妻と夢見た冒険の地を目指して−。その旅は、想像を超える冒険へ、そして思いもよらぬ運命へと彼を導いてゆくのです…。

配給:ウォルト ディズニー スタジオ モーション ピクチャーズ ジャパン
2009年/アメリカ/96分/ビスタサイズ/ドルビーSRD-EX
(C)WALT DISNEY PICTURES/PIXAR ANIMATION STUDIOS ALL RIGHTS RESERVED.

公式サイト http://www.disney.co.jp/movies/carl-gsan/

作品の冒頭、
主人公カールがエリーと出会ってから、
結婚して、
ともに老い、
エリーを看取るまでの60年を
ほとんどセリフもなく映像をつないで見せていく。

クレヨンしんちゃんの『オトナ帝国の逆襲』で
父の半生をモンタージュした名シーンを思い出す。

本作品でもこのシークエンスの演出が非常に冴えている。
観客はエリーが死ぬことを知っているため、
2人が幸せな時間を重ねていながらも、
とても切ない気持ちになってしまう。

そう、
この物語は「悲しみ」から始まるのだ。

大きな喪失を伴う「悲しみ」から世界を拒絶して
偏屈になった主人公が、
新たな出会いの中で「再生」していく物語。

近年では、
クリント・イースドウッドの『グラン・トリノ』が
まず頭に浮かぶ。

それでも、
ファミリー映画の代名詞たるディズニー映画で
このテーマを掲げたことは、
何よりも賞賛に値するのではないだろうか。

とはいえ、やたらと感心するのは冒頭のみで、
カールが膨大な数の風船で家ごと旅に出てからは、
これでもかと言うくらい
セオリー通りのディズニー映画になっていく。

別に否定するつもりはないけれど、
あまりに定石通りに物語が展開してしまうことが
少々残念であり、
同時に、
もう少し違うアプローチの方法があったのではないか、
と思ってしまう。

ま、
ディズニーのポリシーと
マーケットの大きさを考えれば、
そんな無謀な大冒険はできないのだろうけど。

3DCG映像は、
いまさら言及する必要もないほどクオリティが高い。
衣服の質感まで表現し、
前作『ウォーリー』で習得したであろう
レンズの被写界深度まで計算した演出など、
ただひたすら感服するだけだ。

観客を選ばないディズニー/ピクサー作品の名に恥じぬ、
間口の広い映画であり、
当然のことながら娯楽作品としては折り紙つき。

斜めから歪んだ観方をしない限り、
間違いなく充実した時間を過ごすことができるし、
充分なおみやげを貰うことができる作品。