『スティル・アライヴ』

クシシュトフ・キェシロフスキが54歳で急逝してから10年後の
2006年3月にポーランド・テレビで放送されたドキュメンタリー作品。


6月20日公開
原題「STILL ALIVE -a film about Kieslowski」
監督:マリア・ズマシュ=コチャノヴィチ

【内容】
 ポーランド映画界の至宝クシシュトフ・キェシロフスキ監督の没後10年を記念して作られたキェシロフスキの映画作りに関する記録映画。学生時代に始まるドキュメンタリー製作から、ドキュメンタリーとドラマの混在、ドラマへの移行に至るまで、20数本に及ぶ作品について、キェシロフスキ自身の貴重な声、また、スタッフ、友人等が証言を行う。作る映画がどのように形を変えても、キェシロフスキの人間のみかたは変わらなかった。「内部に深く入り込んで現実をとらえたい。」キェシロフスキはいつもそう語っていた。悲しみから生まれた『デカローグ』10本がポーランドを越えてヨーロッパで認められた後、究極の人間存在である“死と愛”の姿を女性たちで描き始めると、キェシロフスキの映像のプリズムはさらなる輝きを持って女優たちをも魅了した。カトリーヌ・ドヌーヴはそんな彼に手紙を書き、映画への出演を懇願した。映画祭のトイレで親しくなったヴィム・ヴェンダースは、「彼は目に見えないものをうつす人だ」と語った。
 アニエスカ・ホランドイレーヌ・ジャコブジュリエット・ビノシュといったキェシロフスキ監督とゆかりのある映画監督や女優たち、キェシロフスキ作品を支えた作曲家ズビグニェフ・プレイスネルと著名な弁護士で脚本の共作者でもあったクシシュトフ・ピェシェヴィチらが登場。「内面に迫りたい」「人間の真実を描きたい」とするキェシロフスキの映像世界をきらめかせる。

配給:ワコー/グアパ・グアポ
2005年/ポーランド/82分/ベーカム
(C)TELEWIZJA POLSKA S.A. 2009

公式サイト http://www.kieslowski-prism.com/

キェシロフスキに関するドキュメンタリーというと、
旧知のドキュメンタリー監督による、
本人へのインタビューで構成された『I'm So-So』という作品を、
まず思い出す。

本作品も『I'm So-So』同様、
キェシロフスキの幼少期から映画学校時代を経て、
代表作を製作順に追っていく。

本作品と『I'm So-So』との最大の相違点は、
現存するキェシロフスキ自身のコメントのほかに、
スタッフやキャストへのインタビューで構成されていることだろう。
また、
『ウッチ市から(もしくは、ウッチの街から)』のほか、
『レントゲン』『労働者'71』の抜粋シーンや、
『デカローグ』『ふたりのベロニカ』の撮影風景など、
いままで垣間見ることもできなかった映像も多く取り上げられており、
興味深い内容になっている。

これまで、
キェシロフスキに関するエピソードの多くは、
前述の『I'm So-So』や
キェシロフスキへのインタビューを纏めた
既刊書籍『キェシロフスキの世界』をはじめとする
キェシロフスキ自身による回顧と、
作品評や解説などから得られるエピソードがほとんどで、
本作品のように、
生前に交流のあった人々が語る「キェシロフスキ像」には、
新たな発見も多くあった。
特に、
トリコロール3部作』後に引退を公表してからの生活など、
これまであまり語られなかったエピソードもあり、
個人的にはとても面白かった。

ただ残念なのは、
作品全体がかなり速いテンポで編集されているため、
次々に色々なエピソードが語られ、
貴重な映像群とインタビュー内容の両方を
同時に追わなければならない場面もあって、
作品についていくことで一杯になってしまうところもあったことだ。

一般的に「ポーランド映画」について語るときは、
ポーランドの政治や歴史を避けて通ることはできない。
けれど、
共産主義国家の実状なんて、
凡々と生きている日本人に容易に理解できるわけもなく、
政党とプロパガンダ映画の製作、検閲、政治的隠喩表現などなど、
当たり前のように速いペースで語られても、
正直、ついていけない部分もある。
テレビ放送用であるため、時間の制約もあるのだろうが、
せめてもう少しゆっくりしたテンポの作品にして欲しかった。

このドキュメンタリー作品が日本でDVD化される可能性は
きわめて低いと思われる。
少なくとも単品商品として発売されることはないだろう。
今回の上映を逃すと、もう一生観ることができないかもしれない。
だから、
きちんと脳裏に焼き付けておくために、
もう一度、劇場へ観に行こうと思っている。

本作品はキェシロフスキ作品の特集上映プログラムの1つで、
今回の上映では本作品のほかに、
日本初上映となる初期のドキュメンタリー作品も多く含まれており、
これらも権利上の問題でDVD発売できないとのこと。

劇場へ通う日々が続きそうだ。