『愛を読むひと』

リトル・ダンサー』でのデビューがあまりにも鮮烈だった、
スティーヴン・ダルドリー監督最新作。
というより、
アカデミー主演女優賞を受賞した
ケイト・ウィンスレットの作品と言うべきだろうか。
とても美しく丁寧に作られた、良い作品だと思う。


6月19日 公開
原題「THE READER」
監督:スティーヴン・ダルドリー
出演:ケイト・ウィンスレット/レイフ・ファインズ/デヴィッド・クロス

【ストーリー】
1958年、大戦後のドイツ。15歳のマイケルは、年上の女性ハンナと激しい恋におちた。ハンナはマイケルに本の朗読を頼み、いつしかそれが二人の愛の儀式となる。しかし突然、ハンナは姿を消してしまう。8年後、衝撃の再会が待っていた。法学生のマイケルが傍聴した裁判で見たのは、戦時中の罪に問われるハンナだった。彼女は“ある秘密”を守るために、不当な証言を受け入れて無期懲役となる。かつて愛した人の忌まわしい過去と、自分だけが知る彼女の“秘密”−衝撃と、それでも消えない愛に引き裂かれるマイケルは、ある選択を下す。
裁判から10年、マイケルは刑に服すハンナの朗読者になることを決意していた・・・。

配給:ショウゲート
2008年/アメリカ・ドイツ/124分/カラー/ビスタサイズ/SDR・SDDS・DTS
(C)2008 TWCGF Film Services II, LLC. All rights reserved.

公式サイト http://www.aiyomu.com/

原作小説のことは分からないが、
本作品でも前作『めぐりあう時間たち』同様、
デヴィッド・ヘアが脚本家として原作の脚色を行っている。
この脚本が良くできているようで、
主演のレイフ・ファインズによると
「原作以上に脚本に惹き付けられた」
とのこと。

恋愛感情がひたすら盛り上がっていく物語前半と、
ハンナが戦犯の罪を問われ懲役に服すことになる後半で、
物語の雰囲気も大きく変化する。
「物語」としての全体構成は非常にシンプルで、
定石通りの展開をしていくのだが、
後半で提示されるハンナの「戦犯」が深刻すぎて、
物語の根幹を大きく揺り動かしていく。

罪に対する憎悪と愛の記憶との間で揺れるマイケルの心情が丁寧に描かれており、
原作小説や脚本の質の高さを感じさせる。

けれどケイト・ウィンスレットの「熱演」は、
そんな脚本の良さや主演のレイフ・ファインズを越えて、
強烈な印象を残しており、
多くの映画賞を受賞していることにもうなずける。
尚、本年度のアカデミー賞では、
配給会社側が助演女優賞で推していたものを、
アカデミー会員の意向で主演女優賞になったとのこと。

ただ、いまいち納得できないのは、
ハンナが懲役刑を受け入れてまで守らなければならない、
彼女の「秘密」についてだ。
作品も宣伝も、
この「秘密」を大きなポイントとしている。
たしかに、「物語」の重要な要素ではあるけれど、
観ていれば、
かなり最初の方で気づいてしまうほど、
その伏線の張り方は大袈裟で不自然である。
そして何より、
懲役刑と引き替えにするほどの「秘密」とは思えないことだ。
これを言ってしまうと、
この物語自体が成立しなくなってしまうけれど。
この「秘密」だけ納得できれば、
素直に感動できると思うのだが・・・。