『愛のコリーダ』

言わずと知れた、大島渚の代表作のひとつ。

今春にアメリカのクライテリオン社から
ブルーレイ盤が発売されたため購入し、
十数年ぶりに観た。

15年ほど前の20歳頃、
数カ所をカットされた修正だらけの日本公開版を観ており、
その2〜3年後に、
海外のオリジナル無修正版のVHSテープから
何度もコピーされたと思われる、
画質の悪いビデオをもらって再見したことがある。

その内容において、
他の作品とは別次元に存在している、
いろいろな意味でスゴい作品であることは充分に理解できた。
けれど、
20歳そこそこの当時の私には
ただ衝撃的だっただけで、
それ以上の理解はできず、
歴史の一端を観た印象しかなかった。

その後、
愛のコリーダ2000』として
ノーカット版で修正箇所も減らされたバージョンが
2000年に公開されDVDも発売されていたが、
こちらは未見。

で、ある程度の歳を取ってから観た『愛のコリーダ』は、
意外なほど「映画」で、面白かった。

何の根拠もなく定の物語だと思っていたが、
実は吉蔵の物語だったことに初めて気づいた。
きちんと観ればすぐに分かることだけど、
そんなことも気づかないほど、
当時は衝撃的だったのだろう。

体からはじまった情愛が深化していくに従って、
吉蔵への独占欲が増していく定。
苦しいのも痛いのもイヤだと言いながらも、
「定が望むなら」と、
「いいよ」と定を受け入れる吉蔵。

ほぼ全編がセックスシーンだと言っても過言ではない本作品中の、
数少ない普通(?)のシーンのひとつに、
町中を行進していく軍隊の脇を、
吉蔵が背中を丸めて反対方向に歩いていくシーンがある。
日本全体が戦争へ向かって増強していく中で、
世情に背を向けて生きる吉蔵の心象を描いた、
非常に印象的なシーン。

もしかしたら、
このワンシーンのためだけに
この映画があるのではないかとさえ思わせるほど、
廃退美にあふれる大好きなシーンである。

愛のコリーダ [DVD]

愛のコリーダ [DVD]