『グラン・トリノ』

クリント・イーストウッド監督最新作。
2008年は『チェンジリング』と本作品の2本が公開されている。
チェンジリング』のときにも書いたが、自身で脚本を書かないとはいえ、えらいハイペースである。
しかも、必ず水準以上の作品を作り続けていることがスゴイ。

4月25日 公開
原題「GRAN TORINO」
監督:クリント・イーストウッド
出演:クリント・イーストウッド/ビー・バン/アーニー・ハー/クリストファー・カーリー

【ストーリー】
朝鮮戦争の帰還兵であり、偏屈で頑固なウォルト。妻に先立たれ息子たちとも疎遠になり、近隣に住むのは東南アジアからやってきたモン族をはじめとする外国人ばかり。ウォルトはそんな全てが気に入らない。
ある日、隣家の少年タオは同じモン族の不良グループにけしかけられて、ウォルトの愛車グラン・トリノを盗もうとするが、現場をウォルトに見つかってしまう。その72年製のフォード車は、ウォルト自身が自動車工として手がけ、今も新品同様でガレージに仕舞われているヴィンテージ品。
事件を未然に防いだことを、タオの母親や姉スーをはじめ近隣のモン族から感謝されるが、ウォルトは彼らに関わりたくない。しかしスーの積極的な導きで、ウォルトは一家と交流を持つことになる。
タオ一家と接するうち、彼らの現実を知り、そして自分自身の本心を知る。痛ましい過去を持つモン族の隣人は、ウォルトにとって本当の家族以上に通じ合える存在だった。そんな隣人との交流がウォルトの心を開いていく。
あの戦争以来、固く閉ざされていた心の扉、それは暗いガレージに仕舞いこまれたグラン・トリノそのものだった。

配給:ワーナー・ブラザース映画
2008年/アメリカ/117分
(C)2009 Warner Bros. Entertainment Inc. and Village Roadshow Films (BVI) Limited. All Rights Reserved

本作品が映画初出演となる、タオ役ビー・バンとスー役アーニー・ハーが良い。ふたりとも演技経験のない、アメリカ在住のモン族とのこと。
本作品に登場するモン族のほとんどは同様に演技経験がなく、オーディションで集められたキャストたち。
歴史の陰に隠れ、あまり知られていないモン族を描いた本作品。
しかもイーストウッド作品とのことで、全米に散らばる在米モン族から全面協力を得ているとのこと。
確かにイーストウッドを知らない人なんて、ほとんどいないだろう。
マカロニ・ウエスタン時代からダーティーハリーを経て現在まで、あらゆる世代の人々が何かしらイーストウッド作品を観ているし、ここ15年ほどの監督作品のクオリティの高さをみれば、喜んで協力したくもなる。
ちなみに脚本家も本作品で映画デビューしている。

イーストウッド演じる偏屈ジジイが、文化の違うモン族に触れて、戸惑いながらも心を開いていく様をコミカルに描いており、思わず笑ってしまう。
このまま心温まるヒューマンドラマとして終わるのかと思っていると、後半で物語りは急展開していく。

もちろん脚本も良くできているのだが、それを丁寧に観せていくイーストウッドの演出もさすがである。
撮影も編集も特筆するようなことは何もしておらず、当たり前に物語と芝居を撮っているだけで、おそらくCGも使用していない。(細部で使用しているかもしれないが)
それでもきちんとイーストウッドの作品になっていることがスゴイ。
イーストウッド作品の主要スタッフは毎回同じで完全に固定化しているため、互いに何をすべきかを熟知していることも大きな要因だろう。
非常に贅沢な製作環境である。

前作『チェンジリング』や他の作品に比べると本作品の規模は小さいが、物語世界は深く、キャラクターも魅力的で、作品が示す解釈の振り幅も広い傑作となっている。

ミニパラ http://www.minipara.com/movies2009-1st/grantorino/

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