『BIUTIFUL ビューティフル』

これまで群像劇ばかりを撮り続けていたアレハンドロ・ゴンザレス・イニャリトゥが一人の男(父親)の物語を描いた最新作。なんと言っても、末期がんを宣告された主人公を演じたハビエル・バルデムが素晴らしい。かなり重い物語で、鑑賞後に極度の疲労感が体と心を襲う。
本当に素晴らしい作品だと思うのだけれど、物語があまりに重すぎて観ながら逃げ出したくなる瞬間が幾度もあった。末期がんであることを元妻にも実兄にも告げることができず、死後に二人の子供を安心して託すことができる場所も見つからない。しかも良かれと思って行動したことが、ことごとく裏目に出てしまい、彼自身を追い詰めてゆく。ちなみに本作品は黒澤明の『生きる』にインスパイアされて書かれた物語とのことだが、死を宣告された男がその余命を懸けて行動してゆくという基本プロット以外に共通点はない。
主演のハビエル・バルデムを除く出演者たちはほぼ無名の役者ばかりかキャスティングされているが、どの役も印象深く物語世界を彩っている。イニャリトゥ監督は脚本とは別に各キャラクターの経歴を細かく作成したそうで、そうした演出プランが映画初出演の役者や演技未経験者の多い本作品に奏功したのかもしれない。
とは言え気になるポイントがないわけではない。そもそも主人公が霊媒師の能力を持っている必要性が全く理解できなかった。物語の冒頭で霊媒師であることが提示された時は仕事として詐欺行為をしているのかと思ったが、後になって霊媒師の師匠が登場した時には愕然とした。この設定が物語展開を大きく左右することもないし、バルセロナという大都市を舞台にして語られるこの辛辣な物語には、むしろ邪魔な設定にしか思えてならなかった。
それでも間違いなく今年の上位にランクインする大好きな作品であり、きっと公開後にもう一度劇場へ観に行くだろう。そして印象が変わらなければ、その後しばらくは心の中に封印することになると思われる。

 

6月25日 公開
原題「Biutiful」
監督:アレハンドロ・ゴンザレス・イニャリトゥ
出演:ハビエル・バルデム/マリセル・アルバレス/エドゥアルド・フェルナンデス/ディアリァトゥ・ダフ/チェイク・ナディアイエ/チェン・ツアイシェン/ルオ・チン/ハナ・ボウチャイブ/ギレルモ・エストレラ
プロデューサー:アレハンドロ・ゴンザレス・イニャリトゥ/ジョン・キリク/フェルナンド・ボバイラ

【ストーリー】
スペインの大都市、バルセロナ。その華やかなイメージの陰には、厳しい現実と日々対峙する人々の暮らしがある。その大都市の片隅で生きる男ウスバル(ハビエル・バルデム)は、妻と別れ2人の幼い子供たちと暮らしていた。生活は決して裕福とはいえず、日々の糧に得るためにはあらゆる仕事を請けおい、時には非合法な仕事も厭わずに働いた。しかしある日、ウスバルに絶望が訪れる。“末期がん”の宣告。彼に残された時間は2ヶ月。家族に打ち明けることもできず、着実に忍び寄る死への恐怖と闘いながらも、ウスバルは残されたすべての時間を愛する子供たちのために生きることを決意する。愛、罪、運命、そして死。終わりを知ったものだけが見せる、力強く美しい人間の姿とは。

配給:ファントム・フィルム
2010年/スペイン・メキシコ合作/148分/スペイン語/シネマスコープ/PG12
(C)2010 MENAGE ATROZ S. de R.L. de C.V., MOD PRODUCCIONES, S.L. and IKIRU FILMS S.L.

公式サイト http://biutiful.jp/index.html

ミニパラ http://www.minipara.com/movies2011-2nd/biutiful/

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