『塔の上のラプンツェル』

ディズニーの長編アニメーション第50作目とのこと。グリム童話に登場するラプンツェル(野ぢしゃ)の物語を換骨奪胎して製作したオリジナルストーリー。原作の設定で残っているのは、塔のてっぺんに幽閉された髪の長い少女という基本コンセプトと一部の非常に大まかな物語展開のみ。もともと原作自体がとても子供向けの物語とは言えないので、その部分を全てそぎ落とした結果なのだろう。ご都合主義的な展開もあるけれど、そんなことは軽く流せるくらいに本作品はディズニーアニメの持つあらゆる魅力にあふれた素敵な作品になっている。
マイケル・アイズナーがCEOを退任し、ジョン・ラセターがチーフ・クリエイティブ・オフィサーに就任してから迎えたディズニーの3度目の黄金期を確信させるにふさわしい作品となった感のある本作品。やはり最大の魅力は、その圧倒的な映像美だろう。本作品は全編3DCGアニメーションで製作されているが、ディズニーのトップ・アニメーターのひとりであるグレン・キーン*1がアニメーション・スーパーバイザーを務めることで、手描きアニメの手法を全面的に取り入れた製作体制が組まれているとのこと。確かにキャラクターの表情の豊かさや動きなど、ここ最近のディズニーアニメでは感じられなかった「ディズニーアニメらしさ」に満ちていて、3DCGであることを忘れる瞬間が何度もあった。そして何と言っても本作品を成立させるために必要不可欠である髪の表現には、ただただ驚嘆するしかないほどだ。一時期は手描きアニメを撤廃して3DCG一本化を図ったディズニーが先述のアイズナー退任を機に、トップ・アニメーターたちを呼び戻し手描きアニメを復活させたことが、前作『プリンセスと魔法のキス』とは別の形で成果を上げている。
当初『Rapunzel』というタイトルで製作されていたが、宣伝方針の都合で『Tangled』へ改題されている。プリンセスを前面に押し出すことが観客層を狭めているとの判断らしい。そう言えばディズニーアニメで白人の少女が主人公になったのは、どの作品振りなのだろう。全ての作品を観ている訳ではないのでハッキリとは分からないが、もしかしたら『美女と野獣(1991)』以来なのかもしれない。そう考えると本作品に対するディズニーの意気込みを強く感じるし、これからディズニーアニメ史の中で第3次黄金期を背負う作品となってゆくのだろうとも思う。
本作品も昨今の流行に乗って3D上映を前提に製作されている。いわゆる奥行き立体感を主としており、その自然さに驚く。あまりに自然すぎて3Dで鑑賞しなくても良いのではないかとさえ思ってしまう。けれど物語後半の湖上シーンは圧巻で、ここだけのために3D鑑賞しても充分に満足できるだろう。日本語吹替え版も丁寧に作られていて、普段は字幕派の人でも抵抗なく鑑賞できると思うので、劇場鑑賞の際はこの驚異の映像を堪能するべく3D吹替え版がお勧め。


3月12日 公開
原題「Tangled」
監督:ネイサン・グレノ/バイロン・ハワード
出演:マンディ・ムーア/ザッカリー・レヴィ/ドナ・マーフィ/ブラッド・ギャレット/ジェフリー・タンバー/M・C・ゲイニー/ポール・F・トンプキンス/ロン・パールマン
日本語吹替版:中川翔子(歌:小此木麻里)/畠中洋/剣幸/岡田誠/石原慎一/佐山陽規/多田野曜平/飯島肇

【ストーリー】
深い森に囲まれた高い塔の上に暮らすラプンツェル。魔法の長い髪を持つ彼女は、18年間一度も塔の外に出たことがなかった。そんな彼女の夢は、自分の誕生日になると夜空いっぱいに現れる“不思議な灯り”の正体を確かめること…。
塔に忍び込んだ大泥棒フリンとの出会いをきっかけに、魔法の髪に導かれたラプンツェルの“すべてが初めて”の旅が始まる。その先には、彼女自身の秘密を解き明かす、思いもよらぬ運命が待ち受けていた…。

配給:ウォルト・ディズニー・スタジオ・ジャパン
2010年/アメリカ/101分/カラー/ビスタサイズ/ドルビーSRD/日本語字幕:松浦美奈
(C)Disney Enterprises, Inc

公式サイト http://www.disney.co.jp/movies/tounoue/

ミニパラ http://www.minipara.com/movies2011-1st/tounoue/

*1:ナイン・オールド・メンの指導を受け、後に『リトル・マーメイド(1989)』のアリエルや『美女と野獣(1991)』の野獣、『アラジン(1992)』のアラジンの担当アニメーターを務める。