『アンチクライスト』

ラース・フォン・トリアー監督最新作。そのあまりの過激描写から日本公開できないのではと言われていたが、国内配給に踏み切ったキングレーコードの度胸をまずは賞賛したい。
本作品が『マンダレイ(2005)』以来の長編監督作品となるトリアー。その間にうつ病を患っていたようで、うつ病のリハビリとして本作品が製作されたとのこと。そのことも影響しているのだろうが一応は意図的に、物語の理屈を考えずイメージ先行で脚本が執筆されたとのこと。なので物語全体のストーリーはあるけれど、よく分からない部分も多い。
それでもこの作品が描く物語は衝撃的で、鑑賞後しばらくは放心状態になること必至。しかも痛い。けれどそんな衝撃の物語を吹き飛ばすほど、作品のプロローグとエピローグ部分のモノクロ映像が美しく素晴らしい。本当にこの最初と最後の映像だけでも本作品を観る価値は充分にあると思う。でもクライマックス以降は見ているだけで本当に痛い。あまりの痛さに逃げ出したくなるほどだ。
本作品は夫婦の物語であり、それ以上の母子の物語でもある。そもそも登場人物はこの3人のみだ。そして彼らの物語の背景に大きく存在しているのは「森」である。原初の自然もしくは神の意志を持つ不定形の存在としての「森」である。そして西洋人にとって理屈で理解できない畏怖の象徴でもある。だから「森」は人に対して不条理で厳しく、その領域に踏み入れた者を狂気へ導き罰を与える。
なお蛇足ながら、近年で同様に森への畏怖を描いた作品にアピッチャッポン・ウィーラセタクン監督の『ブンミおじさんの森』があり、こちらにも森の精霊が登場する。しかし『ブンミおじさんの森』は仏教思想のタイ映画なので、理解できない森への感情も畏怖ではなく畏敬に近い。
また本作品はデジタル撮影のようでフィルムでなくDPL上映となる。

 

2月26日 公開
原題「ANCHCHRIST」
監督:ラース・フォン・トリアー
出演:ウィレム・デフォー/シャルロット・ゲンズブール/ストルム・アヘシェ・サルストロ

【ストーリー】
愛し合っている最中に愛する息子を事故で失った夫婦。深い悲しみと自責の念からしだいに神経を病んでいく妻。セラピストの夫は自ら妻を治療しようと試みる。催眠療法から、妻の恐怖は彼らが「エデン」と呼ぶ森の中の山小屋からきていると判断した夫は、救いを求めて楽園であるはずのエデンにふたりで向かうが、事態は更に悪化していく。現代のアダムとイブが、愛憎渦巻く葛藤の果てにたどりついた驚愕の結末とは・・・。

配給:キングレコード
2009年/デンマーク・ドイツ・フランス・スウェーデン・イタリア・ポーランド合作/104分/カラー及びモノクロ/ドルビー・デジタル/英語/DLP上映/字幕:齋藤敦子
(C)Zentropa Entertainments 2009

公式サイト http://www.antichrist.jp/index.html

ミニパラ http://www.minipara.com/movies2011-1st/antichrist/

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