『怪盗グルーの月泥棒 3D』

20世紀FOX在籍中に『アイス・エイジ』シリーズや『ロボッツ』などの製作総指揮を手がけたプロデューサー クリス・メレダンドリがユニバーサル・ピクチャーズ傘下で設立した新会社イルミネーション・エンターテイメントによる作品。しかもアニメーション製作はフランスとロサンゼルスに拠点を置くマック・ガフが担当するという、少し変わった製作体制の本作品。監督は20世紀FOXアニメーションでストーリー・アーティストを勤めていたクリス・ルノーとCMアニメーションを主に手がけるピエール・コフィンの共同監督となっている。


10月29日 公開
原題「Despicable Me」
監督:ピエール・コフィン/クリス・ルノー
出演:スティーヴ・カレル/エルシー・フィッシャー/ラッセル・ブランド/ダナ・ガイアー/ミランダ・コスグローヴ/ジェイソン・シーゲル/ジュリー・アンドリュース
吹き替え版:笑福亭鶴瓶/芦田愛菜/山寺宏一/伊井篤史/須藤祐実/矢島晶子/京田尚子/内海賢二

【ストーリー】
ある日、ピラミッドが盗まれた!世界中が大騒ぎのなか、怪盗グルーと仲間のミニオンたち世界No.1怪盗団は悔しがる!「俺らじゃない!」彼らはプライドをかけて“月を盗む”という大作戦を計画!そこで、大問題が発生!作戦に不可欠な秘密兵器を宿敵ベクターに盗まれてしまった!鉄壁の守りのベクターの基地から取り返すには、基地に出入りできるアグネスら孤児の3姉妹を利用するしかない。彼女たちを孤児院から引き取った子供嫌いのグルーは「未来のパパ」と懐かれ大混乱!でも、いつしか互いに心を通わせるように…。しかし、ベクターに3姉妹を誘拐されてしまう!果てして3姉妹を助けることができるのか!? そして、月を盗むことができるのか!?

配給:東宝東和
2010年/アメリカ/95分/全5巻/ビサタ・サイズ/ドルビーSRD/カラー/
(C)2009 UNIVERSAL STUDIOS. ALL RIGHTS RESERVED.

公式サイト http://www.tsukidorobou.jp/

この作品がウリにしている最大のポイントは3Dであること。いまだ多い2D/3D変換した映像ではなく企画当初から3D映画として製作されているため、その効果を最大限に利用した作品になっており、宣伝文句に「アトラクション3D」なんて言葉も使われている。などと書くとどれほどのモノかと思うけれど、特筆するような要素はなく、3D映画の乱立する現在ではいたって普通の3D映画にしかなっていない。むしろアトラクション要素を前面に押し出しすぎていて、肝心の物語がぼやけてしまっているようにも感じる。
物語は、何の成果も上げることができないダメ中年グルーが盗みの手段として利用しようと3人の孤児を引き取ったことから、最後には父親になる決意を持つまでの成長物語なのだけれど、その心情変化がご都合主義すぎて描き方に説得力がない。子供たちへ芽生えた愛情と秤に掛けられることとなる月泥棒計画についても、歴史に残る偉業をなすという願望と幼少からの「宇宙へ行く」という夢を叶えること(実は両方とも母親への自己顕示でしかない)を自身の推進力としているのだが、その辺の説明描写も取って付けた感が丸出しで気持ち良くない。どうせならグルーの決断を促す最後の一押しを母親に担わせるくらいの母子物語にしてしまっても良かったのではないかと思う。作品自体は完全に子供向けではあるけれど、それくらい刺激的なスパイスを効かせてくれた方が一緒に観る大人たちも楽しめるし、泣けると思う。何よりそれでこそ笑福亭鶴瓶というキャスティングが活きるようにも思えるのだが。
もちろんこの作品は日本作品ではないし、まして笑福亭鶴瓶ありきの映画でもない。けれど実はそんな錯覚をするほど笑福亭鶴瓶による関西弁「ぼやき」吹き替えがグルーというダメ中年を巧く表現してた。作品全体もしくは主人公レベルでの関西弁吹き替えは『シュレック』シリーズをはじめ過去にも幾つかあったが、これほど主人公のキャラクターにマッチした事例はなかったと思われる。
それでも基本的には「映画館で体験するアトラクション3D」作品なので、それ以上のモノはない表層的な物語でしかない。また各キャラクターも魅力的になる要素はあるものの、どうもイマイチ感が拭えない。特にグルーに従うバナナから作られたミニオン集団のドタバタもツボにはまれば楽しめるけれど、例えばストラップフィギュアが欲しいと思えるような魅力は感じない。と、全てにおいて中途半端な印象が残る作品になってしまっていることが残念でした。


ミニパラ http://www.minipara.com/movies2010-4th/tsukidorobou/