『冬の小鳥』

監督は本作品が長編デビューとなるウニー・ルコント。本作品は実際に韓国から養子としてフランスに渡った監督の実体験をもとに書かれているが、物語のほとんどはフィクションとのこと。製作は『オアシス』『シークレット・サンシャイン』のイ・チャンドン。フランスと韓国で結ばれた映画共同製作協定の第1号作品として製作されている。また映画誌カイエ・デュ・シネマポン・ジュノが2000年代最高の一本として本作品を選出していることも作品の評価を決定づけている。そして何よりも主演ジニ役のキム・セロンへの賛辞にあふれた作品。


10月2日 公開
原題「仏題 Une Vie Toute Neuve / 英題 A Brand New Life」
監督:ウニー・ルコント
出演:キム・セロン/パク・ドヨン/コ・アソン/パク・ミョンシン/オ・マンソク/ソル・ギョング/ムン・ソングン

【ストーリー】
1975年、韓国ソウル郊外。よそ行きの服を着せられて、9歳の少女ジニが旅行のつもりで父に連れられてきた所は、カトリック児童養護施設だった。見知らぬたくさんの少女たち。固く閉ざされた門。その向こうに小さくなっていく背中が最後に観た父の姿となった。父親は必ず迎えにくると強く信じるジニは、頑なに周囲に馴染もうとせず、反発や抵抗を繰り返すが・・・。

配給:クレストインターナショナル
2009年/韓国・フランス/92分/韓国語/カラー/ドルビーSRD/1:1.85
(C)2009 Copyright DCG Plus & NOW Films, GLORIA Films. All Rights Reserved.

公式サイト http://www.fuyunokotori.com/

プレスシートに寄稿されている渡辺直紀氏の解説によると、当時の韓国では戸籍法や血統主義の伝統により孤児が国内で養父母を見つけることは難しく、欧米へ養子縁組せざるをえない状況だったとのこと。本作品の主人公ジニも監督ウニー・ルコント同様に孤児院に預けられ養子縁組を待つことになる。
ジニは父に捨てられた現実を受け入れられずに周囲を拒絶して孤独に取り囲まれるが、やがて同じ境遇の子供たちの中でも年上のスッキとの時間がジニの笑顔を取り戻してゆく。けれどそんな時間も長くは続かず、新たな孤独と絶望が再びジニを襲う。愛する者を失った9歳の少女の孤独と絶望そして再生の物語を、冬から春へと移りゆく季節に重ねて描くことで、静かだけれど力強い感動を観客に与える。
監督ウニー・ルコントの強い思い入れも大きな要因だろうが、やはり何よりもジニ役のキム・セロンの存在が圧倒的。演技経験のあまりない子供を配役する場合、物語の状況の中に放り込んで子供の自然な反応を撮影してゆくことが多い。実際、孤児院の多くの子供たちにはこのような演出を行っているとのこと。けれどウニー・ルコントはキム・セロンにシーンの主旨を理解した上での演技を要求したそうで、それにきちんと応えているキム・セロンの表情や佇まいの一つ一つが確実に作品全体を支配していることに驚く。ジニとスッキのケーキにまつわる調理場での一連エピソードが楽しい。また周囲の大人たちも良い存在感を残す。特に寮母役のパク・ミョンシンが良い。一見怖そうな表情の裏側にあるやり場のない強い感情表現が胸を締め付ける、布団を干しているシーンが素晴らしい。
韓国語原題は「旅人・旅行者」という意味。英語タイトルは「A Brand New Life」。どちらもシンプルでなるほどとお思わせるタイトルではある。けれど、傷付いて孤児院に迷い込んだ小鳥を看病の甲斐なく死なせてしまい庭に埋葬するエピソードに、ジニの心の死と再生の物語を重ねる『冬の小鳥』という日本語タイトルも良いと思う。


ミニパラ http://www.minipara.com/movies2010-3rd/fuyunokotori/

シークレット・サンシャイン [DVD]

シークレット・サンシャイン [DVD]

冬の小鳥 [DVD]

冬の小鳥 [DVD]