『シングルマン』

グッチやイヴ・サンローランのデザイナーを勤めたトム・フォードの初監督作品。これが世界中で思いのほか高評価を得ているだけでなく、主演コリン・ファースの演技も評判高く、作品ともども数多くの映画賞も受賞しており話題の多い作品。


10月2日 公開
原題「A SINGLE MAN」
監督:トム・フォード
出演:コリン・ファース/ジュリアン・ムーア/マシュー・グード/ニコラス・ホルト/ジョン・コルタジャレナ

【ストーリー】
その日は、ジョージにとって特別な一日だった。16年間共に暮らしたパートナーが交通事故で亡くなってから8ヵ月、日に日に深くなる悲しみを自らの手で終わらせようと決意したのだ。ところが、今日が人生最後の日だと思って眺める世界は、ほんの少しずつ違って見えてくる。英文学を教えるLAの大学の授業でいつになく自らの心情を熱く語り、ウンザリしていたはずの隣家の少女との会話に喜びを感じ、かつての恋人で今は親友のチャーリーを訪ねると、身勝手で孤独な彼女に振り回されながらも慰められている。そして一日の終わりには、彼の決意を見抜いていた教え子のケニーの思いがけない行動に心を揺さぶられる。過去に生きていたジョージの瞳に、“今”が輝きだした運命の一日。果たしてその幕切れは―?

配給:ギャガ
2009年/アメリカ/101分/シネスコ/ドルビーデジタル
(C)2009 Fade to Black Productions. Inc. All Rights Reserved.

公式サイトhttp://singleman.gaga.ne.jp/
<< 

トム・フォードという人のことは全く知らなかった。特にファッション業界にも興味はなかったので。ファッション・デザイナーが商業映画を撮ると聞くと「どうせ独りよがりな見た目重視の理解不能な作品」なんだろうという勝手な偏見を持ってしまう。けれど実際にはとんでもなくレベルの高い作品を提示され、少し驚いている。脚本はデヴィッド・スケアスとの共同執筆になっているが、トム・フォードが映画化権を手に入れたときにはデヴィッド・スケアスによる完成された脚本が存在したためだそうで、実際にはトム・フォードが新たに書き上げた脚本を使用しているとのこと。
物語の本質は愛する人を失った喪失感を起点としており、主人公がゲイであることを中心に置いた描写にはなっていない。プロダクションノートにも「死んだ相手がジョージの妻だったとしても、同じ物語になるように書き上げられた」とあるが、どうしても画面上で男同士が妖しく見つめ合っている場面に感情移入はできない。別に偏見があるわけではないのだけれど。それでも作品中でのコリン・ファースの佇まいは特筆もので、コリン・ファースジュリアン・ムーアの存在だけでも作品を見続けることができる。
映像作品としては一級品だと思う。芝居、カメラアングル、編集、音楽、美術、そして当然のごとく衣装。どれを取っても巧いし感心することばかり。でもその巧さが少し鼻につく。個人的な趣向の問題なのだろう。たぶん10年か15年前に観ていたら大好きな作品だったし、何度も何度も見返していただろうと思う。もしかしたら5年後にもう一度観たらハマるかもしれない、そんな作品。けれど「今は別にいいや。スゴイけど」というのが素直な感想。


ミニパラ http://www.minipara.com/movies2010-3rd/singleman/

シングルマン コレクターズ・エディション [Blu-ray]

シングルマン コレクターズ・エディション [Blu-ray]