『恋愛戯曲〜私と恋におちてください。〜』

2001年と2006年に上演された舞台劇を鴻上尚史自身にて映画用に書き直して監督した作品。舞台版からは大きく改変されており、違う物語と言っても良いほど。もともと鴻上尚史は自身の戯曲を再演する際も大幅改変することは多く、時には全く違う設定を取り入れることもあるため、舞台版をそのまま映画へトレースすることはないだろうとは思っていたけれど、これほど変わっているとは思わなかった。
劇作家・演出家としての鴻上尚史は大好きで、しかも自身の戯曲の映画化とのことで少なからず期待して観たのだが、観方を間違っていました。結論から言うと、この作品は作家・鴻上尚史の映画ではなく、深田恭子のアイドル映画です。なんせ深田恭子がとにかく可愛い、そんな映画なのでした。

9月25日 公開
監督・脚本：鴻上尚史
出演：深田恭子/椎名桔平/塚本高史/中村雅俊/清水美沙/西村雅彦/井上順

【ストーリー】
１行も書けなくなった女性脚本家・谷山真由美。ダメ社員のレッテルを貼られたTV制作プロデューサー・向井正也。人生停滞中の冴えない二人が、TV局の命運をかけたスペシャルドラマを作ることに！「谷山先生にシナリオを書いてもらうためなら、何でもします」「じゃあ、私と恋に落ちて」「!?」全盛期には恋愛ドラマの女王と称えられた谷山は、実は自分の実体験をネタに書いてきたのだ。谷山からの、まさかの＜強制恋愛＞で始まった二人の関係。崖っぷちからはばたいて、恋も仕事も敗者復活できるのか?!

配給：ショウゲート
2010年/日本/106分/カラー/ビスタサイズ/DTSステレオ
(C)2010「恋愛戯曲」製作委員会

公式サイト　http://www.koiochi-movie.jp/

この作品は三重構造になっている。まずは締め切り間近なのにテレビドラマの脚本が書けない人気脚本家と何とかして脚本を完成させようとするテレビ局スタッフという現実世界。二つ目はその脚本家が書いている、劇中劇となるテレビドラマの脚本募集に応募した主婦と担当プロデューサーの物語世界。そして三つ目は劇中劇の中で主婦が書いている、セレブな脚本家の物語。舞台版ではこの三つの世界がほぼ同じ展開をしてゆく中で、それぞれの立場の違いにより変わる言動と、他の世界の展開が各々の世界に影響を与えて変化してゆく「多重構造物語の妙」が楽しい作品だった。
けれど映画版では「書けない脚本家とプロデューサーの恋愛」という物語の軸だけを残して、三つの違う物語をそれぞれ違う表現方法で描いてゆくため、観ていて混乱することはない。ここで見せる深田恭子の三大変化が本作品最大の見所ともなる。このアプローチは深田恭子アイドル映画としては正しい選択なのだとは思うけれど、映画作品として成功しているとは個人的には思えなかった。映画だからできる手法だったり物語構成など、いろいろ考えていることは充分に伝わってくるのだが、どこか歯車がズレているように思える。別の言い方をすると、とてもウソっぽいのだ。
もともとの戯曲が舞台劇としてのウェルメイドを目指していたのと同様に、本作品も映画としてのウェルメイドを目指したのは明白で、歯車がズレたウソっぽさも1940〜1950年代ハリウッドのスクリューボールコメディのようなテイストと見ることもできる。地上から数センチ浮いた世界で展開する恋愛コメディ。それはタイトルの出し方にも顕著で、夜の遊園地で観覧車に乗っている深田恭子が椎名桔平に「私と恋におちて」と言うと、夜空にハート型の花火が上がりタイトルが出る。もうこの、あふれんばかりの浮遊感だけで観ていて気が遠くなる。
もちろんシリアスに描くつもりなど毛頭ないのだろうし、確信犯でやっているのだけれど、そのウソっぽい浮遊感が狙いどおりの効果を生んでいないように思える。本作品が本当にウェルメイドな作品になっていれば良いのだけれど全体的に中途半端だし、かといってアイドル映画としても物足りなさが残ってしまう。深田恭子に三大変化などさせる時点で、思い切ってアイドル映画に徹してしまえば良かったのだろうけれど、「鴻上尚史 脚本・監督作品」という作家としての看板を下げることもできなかったのかもしれない。この二つがどうしても巧く融合しているように思えないのだ。
鴻上尚史が自身の戯曲の中で「一番映像にしたかった」と語っている本作品であるが、そんな訳で、鴻上戯曲の真骨頂とも言える物語の進行に従って現実と虚構が互いに干渉しながらその境界が曖昧になってゆく、ある意味で裏返しのカタルシスを味わうことはできない。せっかく鴻上尚史が映画を撮るのならば、そんな裏返しのカタルシスにあふれた作品を観てみたいと思う。けれどきっと鴻上尚史自身は、演劇世界を映像作品として再構築することに興味はないのだろうとも思う。

ミニパラ http://www.minipara.com/movies2010-3rd/koiochi/

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