『小さな命が呼ぶとき』

実話を基に脚色を加えた物語で、ハリソン・フォードが出演と併せて企画段階から製作総指揮として参加している。現実にはブレンダン・フレイザー演じる主人公ジョン・クラウリーが関わった学者や実業家などは複数になるらしいが、脚本段階でそうした人々をハリソン・フォード演じるロバート・ストーンヒル博士という1人のキャラクターに集約したとのこと。なので宣伝はともかく、作品自体はそれほど「実話」であることをそれほど前面には押し出していない。あくまで「inspired by true story」としており、クラウリー一家の心情に対する描写だけは嘘にしたくないとのスタンスで製作されている。キャラクターの統合という大きなメスを入れることで「実話」であるという枷を取り除き、ジョンとストーンヒル2人の謂わばバディムービーとも取れる物語を縦軸に、クラウリーと家族の決意の物語という横軸を編み込ませた物語構成が良い。

7月24日 公開
原題「EXTRAORDINARY MEASURES」
監督:トム・ヴォーン
出演:ブレンダン・フレイザー/ハリソン・フォード/ケリー・ラッセル/ジャレッド・ハリス/コートニー・B・ヴァンス/メレディス・ドローガー/ディエゴ・ヴェラスケス/サム・M・ホール/パトリック・ボーショー

【ストーリー】
オレゴン州ポートランドに住むエリート・ビジネスマン、ジョン・クラウリー(ブレンダン・フレイザー)には、自らの命に代えてでも守りたいものがあった。愛妻アイリーン(ケリー・ラッセル)との間にもうけた8歳の娘メーガンと6歳の息子パトリックが“ポンペ病”という難病に冒されてしまったのだ。平均寿命9年とされるこの病気に治療薬はない。残された時間は、あと1年ー。苦悩の日々の中で精神的に追いつめられていったジョンは、ポンペ病の権威であるロバート・ストーンヒル博士(ハリソン・フォード)の研究に唯一の希望を見出し、ビジネス界でのキャリアを捨てることを決意。そして二人はバイオ・テクノロジーベンチャー企業を起こし、子供たちの小さな尊い命を救いうるただ一つの道、すなわち自力で治療薬を開発するという夢の実現に向かって突き進んでいく・・・。

配給:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント
2009年/アメリカ/105分/スコープサイズ/全6巻/2,878m/SDDS、ドルビーデジタル、ドルビーSR

公式サイト http://www.papa-okusuri.jp/

良心的な映画だと思うし、キャスト・スタッフが頑張っていることも伝わってくるような、観て損はしない良い映画だと思う。そのことを踏まえた上で、率直な私個人の感想は、特に語ることのない「どうでもいい」映画となってしまう。趣味の問題ですね。結局のところ作品の主題でもある物語の大枠としての「実話」を壊すことはもちろんできず、その中で行った前述のようなキャラクター統合などの物語的な脚色は、効果的な部分もある反面、ご都合主義的展開や定石どおりの物語といった新たな枷から逃れられなくなってしまったようにも感じる。
原題は「EXTRAORDINARY MEASURES」。主人公ジョンの決断によりストーンヒル博士などを巻き込んだ彼らの希有な行動と成果に視点を置いたタイトルになっている。対して日本語タイトル『小さな命が呼ぶとき』とは、心肺停止から回復した娘の表情からジョンが一大決心をする物語の転機となるシーンに視点を置いていると思われる。作品自体に直接は関係ないが、物語の縦軸となる事象からタイトルを発想するアメリカと、物語の横軸となる登場人物の感情からタイトルを発想する日本という対比も面白い。但しどちらも良いタイトルだとは思えないけれど。
蛇足ながら、とても表面的な部分で気になったのは、ブレンダン・フレイザーの肉で重そうな瞼。あと、物語ラストの後日談を説明してゆくシーンで流れる選曲のナンセンスさに全てを台無しにされてしまった印象が拭えないこと。


ミニパラ http://www.minipara.com/movies2010-2nd/chiisana/