『シュアリー・サムデイ』

小栗旬の初監督作品。最初の些細な思いつきから9年を経て映画として完成した作品とのこと。
「バカで最高!」というキャッチコピーからも想像できるように作品の見せ方は総じて漫画的。当然個々のエピソードも登場人物のキャラクター設定もありえないくらい濃い上に、全編小ネタと言っても過言ではないほどたくさんのネタが詰め込まれていて、画面からあふれる情報量が尋常ではない。でもそれこそが本作品の目指していることでもあるので、その部分に関してはとても楽しい作品でした。


7月17日 公開
監督:小栗旬
出演:小出恵介/勝地涼/鈴木亮平/ムロツヨシ/綾野剛/小西真奈美/横田栄司/竹中直人/岡村隆史/吉田鋼太郎
音楽:菅野よう子

【ストーリー】
モテるために必死でバンド練習してたのに、突然文化祭が中止!? 文化祭復活のために教室占拠したら、なぜかハッタリのはずの爆弾が誤爆!学校爆破犯のレッテル、退学、勘当、引きこもり、しまいには親の自殺。爆破事件以来、何をやってもうまくいかないタクミ、キョウヘイ、カズオ、ユウキ、シュウト。明るい未来なんてあるはずない・・・。そんなある日、ヤクザ家業に身を落としていたカズオのせいで大事件勃発!! 「明日までに3億円と女持ってこないと臓器売って沈めちゃうからね。OK?」『ありえねえ!!!』びびりまくる5人。『でも、これって最悪な人生から抜け出す、最高のチャンス?』3億円取り戻して、バカで最強だった俺たちを取り戻す!!!

配給:松竹
2010年/日本/122分/カラー/ビスタサイズ/ドルビーSRD
(C)2010「シュアリー・サムデイ」製作委員会

公式サイト http://www.surely-someday.jp/index_pc.html

けれど作品全体で見ると上映時間に対してエピソードを盛り込みすぎていて、かなり無理がある作品になっている。物語の中心となる現在進行形で語られるストーリーの合間に、高校生時代と小学生時代の物語も挿入され、それぞれが現在の物語進行に従って徐々に深く関係してくる。とにかく登場人物とエピソードの数が多くて物語の構成が少々複雑ではあるが、よく整理されているため分かりづらいということはない。作品全体が漫画的なので、そのスピードに乗せて語りきってしまえば何とかなるのかもしてないが、困ったことに要所ごとに感情ドラマをかなりの比重で挿入してくるため物語のスピードを緩めてしまうことになる。本作品は小栗旬が書き続けてきた脚本を武藤将吾がリライトした時点で全く違う物語になったとのことだが、実際どこまで変わっているのかは分からない。それでもテレビの連続ドラマを中心に脚本を書いている武藤将吾の参加により連続ドラマを無理矢理2時間に凝縮したような密度になっていることが、作品に「両刃の剣」となって作用してしまっている。
正直これだけの物語を語るには122分という時間は短い。もっと物語を整理してエピソード数を減らして時間も短くするか、いっそ160分くらいの長尺作品にする以外に、作品としてまとめる方法はないと思われる。どちらにしても監督の手腕が問われるので、初監督でこの作品は荷が重いのだろう。いや小栗旬は頑張っていたと思うけれど、この物語に思い入れがあるならばなおさら、せめて監督2作目か3作目くらいまで待っても良かったのではないだろうか。どうやらとても真面目な人らしいので、作品数を重ねることで格段に成長すると思われるため今後にも期待したい。
先述のように全体が漫画的描写と小ネタであふれているため観ているだけなら楽しい作品ではあるが、感情ドラマに比重が傾くとそこに物語的「深み」は感じられず、どうしても軽い方へ流されてしまい間がもたない。かろうじて音楽がその間を埋めようとするのだけれど、かえって「とってつけた」感を増幅させてしまっていて悪循環になってしまっているように思える。また、国の内外を問わず古今東西映画の中で描かれる、バンド演奏で盛り上がっているというシーンが映画的描写として成功したことはなく、どうしても観ているだけで恥ずかしいシーンになってしまう。本作品の路上パフォーマンスのシーンも例外ではない。楽曲自体はポップな曲とリリカルな曲のどちらも、作曲家・菅野よう子に対する個人的な思い入れもあって楽しいのだけれど。
こうして、いろいろ空回りしている部分が散見されても楽しく観ることができるのは、本作品が役者の魅力に満ちているからでもある。これは役者が演出を手がける作品の多くで共通して突出する特徴でもある。映画作品としても完成度は決して高くはないが、役者の魅力と物語の情報量の多さにあふれていて楽しい作品になっている。


ミニパラ http://www.minipara.com/movies2010-2nd/surely/