『ぼくのエリ 200歳の少女』

ボーイ・ミーツ・ガールな初恋物語なのにホラー映画で、しかもスウェーデン映画という少し珍しい作品。でもこれがとても素晴らしい映画でした。
原作はヨン・アイヴィデ・リンデクヴィストの小説『MORSE ーモールスー』。脚本もこの原作者自身により書かれている。監督はおそらく日本では初紹介となるトーマス・アルフレッドソンスウェーデンのテレビ番組を中心に作品を発表しているとのこと。2008年の作品で、すでにハリウッドで『クローバーフィールド』のマット・リーヴス監督によるリメイク版『LET ME IN』が製作され2010年10月に全米公開を控えている。


7月10日 公開
原題「LET THE RIGHT ONE IN」
監督:トーマス・アルフレッドソン
出演:カーレ・ヘーデブラント/リーナ・レアンデション/ペール・ラグナル/ヘンリック・ダール/カーリン・ベリィクイスト/ペーテル・カールベリ/イーカ・ノード

【ストーリー】
遊び盛りの12歳なのにひとりも友だちがいない少年オスカーが、初めて恋に落ちた。しかし彼の心を射抜いたエリは、知れば知るほど謎が深まる少女だった。オスカーの家の隣に引っ越してきたばかりのエリは、ぼさぼさの黒髪に青白い顔をしていて、いつも夜にしか姿を現さない。学校に通っている様子もなく、オスカーと同じ12歳だというのに自分の誕生日も知らないという。
エリとの出会いと時同じくして惨たらしい殺人事件が続発し、町に不穏な空気が流れるなか、オスカーは自らを取り巻く世界が一変するほどの重大な秘密を知ってしまう。それはエリはとっくの昔から12歳だった、という衝撃の真実。何とエリは町から町へと移り住みながら人間の血を吸い、200年も生きながらえてきたヴァンパイアだったのだ・・・。

配給:ショウゲート
2008年/スウェーデン/115分/35mm/スコープサイズ/SRD・DTS/PG12
(C)EFTI MMVIII (C)EFTI_Hoyte van Hoytema

公式サイト http://www.bokueli.com/

まず最初に魅了されるのは映像の美しさ。何といっても夜間シーンが素晴らしい。漆黒の空の下で街灯に照らされて一面に輝く雪景色という、現実にはかなり嘘な映像なのだが、その幻想さが主人公2人の物語を美しく浮かび上がらせている。また雪に包まれたストックホルム郊外の街の風景が映し出す、陰鬱で封建的なある種の閉塞感も物語の背景として良い効果を与えている。
スウェーデンの社会事情には詳しくないが、物語の舞台となる1982年という時代が現在のスウェーデンよりもはるかに封建的だったであろうことは容易に想像できる。携帯電話もインターネットも普及した現代の速すぎる時間の中では気づかずに取りこぼしてしまうような、時間もしくは事象の隙間に存在する物語の情感がこの作品には確実に描かれている。そんな閉ざされた雪世界の中で実にゆっくりと進んでゆく物語の耽美さに引き込まれる。
原題(英語タイトル)は『LET THE RIGHT ONE IN』(正しき者を招き入れて)。モリッシーの楽曲から引用されているとのこと。原作小説の原題も同意のスウェーデン語で、「MORSE」は日本オリジナルのタイトル。原作小説よりも映画の方がこの「MORSE」というタイトルに合っているように思える。少なくとも『ぼくのエリ 200歳の少女』などという「なぜ?」なタイトルよりは幾倍も良いと思うのだが。
先述のとおり映画化にあたり原作者自身による脚色が行われており、原作小説からは主に物語後半部分が大きく変更されている。原作小説では主人公2人だけでなく周囲の人々についてもかなり深く描かれていて、物語後半の展開にも彼らが大きく関わってゆく。その過程には映像化するとただのB級ホラー映画になってしまいそうな凄惨なアクションシーンも含まれている。けれど映画では主人公2人のラブストーリーとして絞り込んだ脚色がされており、小説にしか登場しないキャラクターも多くいる。結果として説明不足なってしまっているところも幾つかあるのだが、映画はあくまで主人公2人の物語を中心においているため、そんな理屈的な説明がなくても、むしろ説明がないからこそ充分に2人の情感を感じることができるようになっている。
ところが日本語タイトル以上に重大な問題は、物語のラスト近くのあるカットに「ぼかし」が入ることだ。このカットに修正を入れてしまうことで物語全体の解釈を根本から変えてしまうことになる。そもそも修正を入れなくてはならないような映像ではないはずだ。にもかかわらず修正が入ってしまっている。この愚行としか言いようのない処置により、この作品を正しく理解するためには原作小説を読むか、修正箇所に何が映っているかを第三者に解説してもらわないとならない。作品自体は本当に素晴らしい情感豊かな物語であるだけに、本当に残念でならない。


ミニパラ http://www.minipara.com/movies2010-2nd/bokueli/

ぼくのエリ 200歳の少女 [DVD]

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MORSE〈上〉―モールス (ハヤカワ文庫NV)

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MORSE〈下〉―モールス (ハヤカワ文庫NV)

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