『闇の列車、光の旅』

2009年サンダンス映画祭で監督賞を受賞した、キャリー・ジョージ・フクナガの長篇デビュー作。日系3世の父親を持つ日系アメリカ人とのこと。不法移民を作品の主題に置いているが、そのほかに様々なテーマを内包させており、それを96分という時間の中にきちんと収めている秀作。


6月19日 公開
原題「Sin Nombre」
監督:キャリー・ジョージ・フクナガ
出演:パウリーナ・ガイタン/エドガー・フロレス/クリスティアンフェレール/テノック・ウエルタ・メヒア/ディアナ・ガルシア

【ストーリー】
ホンジュラスに住む少女サイラ。よりよい暮らしを求め父とアメリカを目指すことにした彼女は、移民たちがひしめきあう列車の屋根の上で、カスペルというメキシコ人少年と運命の出会いを果たす。彼は、強盗目的で列車に乗り込んだギャングの一員だったが、サイラに暴行を加えようとするギャングのリーダーを殺しサイラを救う。裏切り者として組織から追われることになったカスペルと、彼に信頼と淡い恋心を寄せ、行動を共にするサイラ。国境警備隊の目をかいくぐり、組織の待ち伏せをかわしながら二人は命がけで国境を目指すのだが・・・。

配給:日活
2009年/アメリカ・メキシコ/96分/シネマスコープ/ドルビーデジタル
(C)2008 Focus Features LLC. All Rights Reserved.

公式サイト http://www.yami-hikari.com/

本作品は大きく分けて三つの物語によって構成されている。
一つめは、少女サイラの物語。サイラと父親をはじめとするアメリカへ不法入国を目指す人々は、メキシコのさらに南に位置するホンジュラスからグアテマラを経由して、アメリカとの国境線メキシコ北部まで縦断する列車の屋根に乗って旅してゆく。メキシコの国境警備隊から逃れて無事に国境を越えることができる保障もなければ、アメリカへ不法入国できたからといって安泰な生活を送れるアテもないことを承知のうえ、それでも故国に残るよりは良いと希望を求めて旅をする人々。そんな不法移民者たちの実情がサイラと父親を中心に語られる。
二つめは、青年カスペルの物語。カスペルは実在するマラ・サルバトゥルチャというストリート・ギャングの一員だったが、リーダーであるリルマゴを殺害したことで組織から命を狙われることになる。サイラたちの乗る列車で逃亡を続けるが、逃げ切れないことも分かっている。
この2人の恋愛にも至らない交流により物語全体が進められていゆくが、そこに大きな障害として描かれるのが三つめ、少年スマイリーの物語。カスペルに憧れてマラ・サルバトゥルチャに加入したスマイリーは、裏切り者カスペル掃討を買って出る。まだ人を殺したことのない新人のスマイリーは、カスペル掃討の旅に出る前に近所のさらに年下の子供たちに拳銃を見せて自慢し、少年たちの羨望の的となる。組織の一員となることで彼らの縄張りの中であれば、メンバーの家族をも守ってくれる。それは故国を捨てずに暮らしてゆく確かな選択肢のひとつでもある。そうして世代交代を重ねて連鎖してゆく暴力の物語。
そんな彼らの物語の交差をそれぞれ丁寧に、しかも説明過多にならずに描きこんでゆく語り口が素晴らしく、脚本・監督を務めるキャリー・ジョージ・フクナガの、デビュー作とは思えない手腕の確かさを証明している。
原題の「Sin Nombre」は「名前がない」という意味のスペイン語とのこと。おそらくここで言う「名前がない」とは、国家をはじめとする大勢からドロップアウトした、もしくは、せざるを得なかった人々である。アメリカへの不法入国を果たせずに命を落としたり強制送還されてしまう人々、入国できても生活のアテのない人々、生きてゆくために組織に加入して暴力に身を染める人々、組織に馴染めずに裏切り者として命を狙われる人。この作品は表側の社会に居場所を持たなかったり持てなかった、でも確かに存在している名もなき人々の物語なのだろう。


ミニパラ http://www.minipara.com/movies2010-2nd/yami-hikari/

闇の列車、光の旅 [DVD]

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