『9 〜9番目の奇妙な人形』

2005年アカデミー賞短編アニメーション部門にノミネートされた11分の作品にティム・バートンが惚れ込んで長編映画化された、シェーン・アッカー監督作品。
映像を見ずに場面写真だけを見たときは何の根拠もなくストップモーション・アニメかと思っていたが、実際にはフルCGアニメーションでした。けれど「プロダクション・ノート」を読んで納得。キャラクター造形においてはヤン・シュヴァンクマイエルクエイ兄弟などの影響を受けているようで、本作品も短編制作当初はストップモーション・アニメでの制作を想定していたとのこと。本作品のヴィジュアル部分での東欧的ダークさはこの辺の作風を引き継いでいるようです。


5月8日 公開
原題「9」
監督:シェーン・アッカー
声の出演:イライジャ・ウッド/ジョン・C・ライリー/ジェニファー・コネリー/クリストファー・プラマー/クリスピン・グローヴァー/マーティン・ランドー/フレッド・ターターショー

【ストーリー】
古びた研究室の片隅で、麻布を縫い合わせて作られた奇妙な人形が目を覚ました。腹部には大きなジッパー、背中には数字の"9"が描かれている。自分は誰なのか、ここはどこなのか、彼にはわからない。恐る恐る外を見ると、見渡す限りの廃墟が広がっていた。茫然とする彼の前に現れたのは、背中に"2"と描かれたボロ人形だった。
2は9に自分たちは仲間だと語りかける。だが巨大な機械獣が突如二人に襲いかかり、2は連れ去られてしまう。気を失った9を助けたのは、他のナンバーをつけた人形たちだった。9は仲間たちに、2を助けに行こうと訴えるが、保守的なリーダーに制止される。気持ちを抑えられない9は機械獣たちの棲み家へと向かう―。
人類はなぜ滅びたのか。9体の人形は何のために作られたのか。

配給:ギャガ
2009年/アメリカ/80分/カラー/ビスタサイズ/ドルビーデジタル
(C)2009 Focus Features LLC. All Rights Reserved.

公式サイト http://9.gaga.ne.jp/

本作品の舞台は人類滅亡後の荒廃した街であるため人工的な照明が基本的には存在せず、日中でもどんよりと曇った空が広がっていて、終始薄暗い画面が続く。街並みも東欧を思わせ、先述したようなキャラクター造形もあって、アメリカ映画であるにもかかわらず作品全体を支配する東欧的ダークさが絶妙。それだけでワクワクしてしまう。けれどもダークな雰囲気を醸しているのはヴィジュアル面だけで、キャラクターの性格設定や物語の進行はエンターテイメント思考というか、とてもアメリカ的になっている。そんな東欧的映像とアメリカ的キャラクター設定のバランスがよいのか、気軽に楽しめる娯楽作品となっている。もちろん逆にこのアメリカ的な設定やストーリーテリングがイヤだという人も多いと思う。
しかもストーリーに関しては鑑賞後に幾つか疑問が残ってしまう。仲間を助けるため人間を滅ぼした機械を相手に戦うという部分は楽しい。けれど「機械が人間を滅ぼした理由」や「9体の人形が作られた理由」などのいわゆる理詰めの部分があまりにも陳腐でつまらない。私の観方が悪かったのか、後者に至っては実はよく理解できなかった。さらにラストの儀式(と言ってよいと思う)が何の説明もなく突然行われてしまい、理詰めの設定にも全く反映されていないように思える。ちなみに長編化にあたり脚本を担当したのは、『コープスブライド』で共同脚本を担当したパメラ・ペトラーによる単独脚本。
実は今回観た試写では本編終了後に本作品の元となった11分の短編が併映された。この短編が、先述した「疑問」部分を取り除いて物語り全体を凝縮したような作品になっている。つまり今回の長編で疑問に感じた部分は、全て長編化にあたり後付けされた部分らしい。なるほど、11分の短編であれば物語世界の背景事情を説明しなくても作品として成り立つけれど、80分とはいえ長編作品となれば説明しなくてはならない(と思い込んでいる)ということか。それならばもう少し長くなってもいいから、背景事情を物語にもっと上手く取り込んで欲しかった。もしくはそんな背景事情の説明など完全に破棄して、短編同様に仲間を救う戦いだけに絞った方が良かったのではないだろうか。いずれにしてもあれでは全てが中途半端すぎると思う。クライマックスまでの物語はとても面白かっただけに、とても残念である。尚、この短編は同時上映ではなく別途公開*1されるとのこと。
とはいえ、シェーン・アッカーによる映像は秀逸で、充分に一見の価値はある。劇中で『オズの魔法使い』の挿入曲「虹の彼方に/Over The Rainbow」が流れるシーンの、あまりの美しさに高揚してゾクゾクしてしまった。

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*1:『9 〜オリジナル・ショートフィルム』
2010年5月1日(土)より
ブリリア ショートショート シアターにて公開。
劇場サイト:http://www.brillia-sst.jp/