『抱擁のかけら』

ペドロ・アルモドバル監督作品。『オール・アバウト・マイ・マザー』で市民権を得て以降、すっかりスペイン映画の巨匠となってしまったアルモドバル。多少のブレはあっても充分に安定した作品を撮り続けているため、安心して観ることができる数少ない監督の一人。また何と言っても、アルモドバル作品に出演する俳優の表情が素晴らしく、いつも見入ってしまう。


2月6日 公開
原題/英題「LOS ABRAZOS ROTOS/BROKEN EMBRACES」
監督・脚本:ペドロ・アルモドバル
出演:ペネロペ・クルス/ルイス・オマール/ブランカポルティージョ/ホセ・ルイス・ゴメス

【ストーリー】
欲望と裏切りが引き起こした事件により、生涯をかけた愛、視力、そして人生までも失ったハリー・ケインは、過去を封印し、名前を変えて違う人生を生きてきた。ある日、事件の謎を握る男との再会をきっかけに、ハリーは再び愛と向き合う。
14年前、ハリーはマテオの名前で映画監督として活躍、女優を夢見る女性レナと出逢う。二人はひと目で恋に落ちるが、レナには富と権力で彼女を支配するパトロンのエルネストがいた。マテオとの出逢いで、愛に目覚め、女優として生きる喜びを知ったレナ。しかし行き過ぎた愛が、二人を引き裂く事件を起こす。
ハリーは愛を辿り、愛のかけらをつなぎあわせることで、事件の裏に隠された真実を知る。魂揺さぶる、その真実とは。

配給:松竹
2009年/スペイン/128分/カラー/シネマスコープ/SRD・SR
(C)EL DESEO,D.A.,S.L.U. M-2535-2009

公式サイト http://www.houyou-movie.com/

アルモドバル作品は『アタメ』以降はほぼリアルタイムで観ている。80年代作品群の、衣裳も美術も登場人物も全てが極彩色な映像世界の中で、たとえ方法や嗜好が偏っていても正直に生きようと暴走する主人公たちの姿を見るのが大好きだった。迷走の90年代を経て成熟の00年代も過ぎようとしている現在においても、本質的にはその姿は変わることがない。アルモドバルが今年(2009)で60歳と知って納得する。多くの場合、作家(ジャンルを問わず)が創作活動に専念できれば50歳代の作品が最も充実しており傑作もその時期に多いと、誰かが言っていた。
本作品でもその充実した巨匠っぷりを存分に発揮している。そして俳優たちが皆、良い表情を見せる。一応、アルモドバル作品4度目の出演となるペネロペ・クルスが主演と謳われているが、物語の中心は元映画監督を演じるルイス・オマールである。2人の好演もさることながら、彼をサポートするジュディット役のブランカポルティージョがとても印象深い演技を見せている。

ちなみに作品の物語展開には直接関係ないのだが、アルモドバル映画ファンにとって見逃せないのは、主人公が劇中で監督する映画「謎の鞄と女たち」だ。これはアルモドバル自身の『神経衰弱ぎりぎりの女たち』をベースにした物語になっている。美術や衣裳なども当時より洒落てはいるが、それでも充分に雰囲気を再現していて、断片的に描かれる撮影シーンがとても楽しい。アルモドバル自身もこのシーンの撮影が予想外に楽しかったようで、当初の必要以上にシーンを書き足して撮影したらしい。
久し振りに80年代の作品を観直したくなる。

抱擁のかけら [DVD]

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