『Dr.パルナサスの鏡』

テリー・ギリアム監督最新作、 というよりヒース・レジャー急逝による代役の豪華さが話題の本作品。 フタを開けてみれば、 ギリアム色全開の絢爛ファンタジーでした。


1月23日 公開
原題「The Imaginarium Of Doctor Parnassus」
監督:テリー・ギリアム
出演:ヒース・レジャー/クリストファー・プラマー/ジョニー・デップ/ジュード・ロウ/コリン・ファレル/リリー・コール/トム・ウェイツ

【ストーリー】
2007年、ロンドン。パルナサス博士が率いる旅芸人の一座が、街にやって来た。博士の出し物は、人が密かに心に隠し持つ欲望の世界を、鏡の向こうで形にして見せる「イマジナリウム」。博士の鏡をくぐりぬけると、そこにはどんな願いも叶う摩訶不思議な迷宮が待っている。しかし、1000歳になるという博士には、悲しい秘密があった。それは、たった一人の娘が16歳になったときに悪魔に差し出すという約束をしたこと。タイムリミットは、3日後に迫った娘の誕生日。一座に加わった記憶喪失の青年トニーとともに、博士は、鏡の迷宮で最後の賭に出る。彼らは、娘を守ることができるのかー?

配給:ショウゲート
2009年/イギリス・カナダ/124分/カラー/ビスタサイズ/SRD・DTS・SDDS
(C)2009 Imaginarium Films, Inc. All Rights Reserved. (C)2009 Parnassus Productions Inc. All Rights Reserved.

公式サイト http://www.parnassus.jp/index.html

偉大なる失敗作『バロン』で 当初の予算を大幅にオーバーした上に大コケして以来、 自身の企画に資金が集まらなかったギリアム。 『フィッシャー・キング』以降、 他人の脚本作品でコンスタントに製作を重ねて 出資者の信頼を取り戻した果てに、 ようやく製作をスタートさせることができた 久し振りのギリアムのオリジナル脚本作品。(途中に撮影数日で頓挫した『ドン・キホーテ』なる作品もありましたが) そのためか、 『バロン』の雪辱戦でもあるかのようなギリアム・ファンタジーが作品中にあふれている。 当時の撮影技術では映像化しきれなかったギリアムの想像世界でも、 現在のCG技術であれば表現できるということなのだろう。それはまるで、 美術も物語も『バロン』をリメイクしているのではないかと 錯覚してしまうほどだ。
けれど、 このギリアム・ファンタジー、 少々クセが強い。 とても万人受けするとは思えないが、 好きな人にはたまらない世界。
正直、 今回のヒース・レジャーの一件がなければ、 これほど話題にはならなかったのではないだろうか。 もし本作品が順調に製作されていたら、 宣伝規模だってもっと小さかったはずだ。

前述の通り、 共同脚本とはいえギリアムのオリジナル脚本となる本作品、 物語そのものは取り立てて語るべき部分は少ない。 ギリアム作品には新旧を問わずその全作品の根底に「ドン・キホーテ」があり、 オリジナル作品の場合はより色濃く表出するだけだ。 現実世界と、 想像もしくは物語、妄想、狂気の世界。 信じることで双方の世界が存在し始め、 その狭間で物語が展開していく。 そんなある種のセオリー通りの物語を、 少し観ればすぐにそれと分かるギリアム独特の美学で映像化していく。

『バロン』以前の作品を観たことがない人のうち、 20人か30人に一人でも、 ギリアム・ワールドから抜け出せずに沈没する人が出れば良いな、と期待します。