『夜は短し歩けよ乙女』 (森見登美彦 著 / 角川書店刊)

森見登美彦」という名前、
正確には「森見登美彦」という漢字表記は記憶の片隅にあったので、
雑誌や書店など色々なところで見かけていたと思われるが、
作品は読んだことがなかった。
というより、作家という認識もなかったと思われる。

今回の文庫化にあたり、解説イラストを羽海野チカが書いていなかったならば、
おそらくこの先も、本書を手に取ることはなかったであろうと思うと、
空恐ろしい気持ちのなるのです。
そして、作品との巡り合わせとは本当に不思議なものだと、改めて感じるのと同時に、
感謝をするのでした。

と、作品につられて妙な口調になっておりますが、要は

「とても面白かった」のです。


「黒髪の乙女」にひそかに想いを寄せる「先輩」は、夜の先斗町に、下鴨神社の古本市に、大学の学園祭に、彼女を追い求めた。けれど先輩の想いに気づかない彼女は、頻発する“偶然の出逢い”にも「奇遇ですねえ!」と言うばかり。そんな2人を待ち受けるのは、個性溢れる曲者たちと珍事件の数々だった。


作者独特(と言って良いだろう)の甘ったるい文学的表現は、
読み始めてから慣れるまでに少々の時間を要したが、
慣れてしまうと困ったことに、
その甘ったるさ加減が、快楽に変貌してしまったのでした。
途中からはずっと、どきどき、わくわく、にまにましながら読んでいました。

さらに困ったことには、
羽海野チカの解説イラストを最初に読んでしまったため、
主人公である黒髪の少女をはじめとする全登場人物が、
羽海野チカが書く絵のまま頭の中を走り回っていて、
まるで羽海野チカの漫画を読んでいるようで、
これまた非常に楽しかったのです。

ここ数年は、以前ほど多くの本を読まなくなっていたのですが、
久しぶりに読んでいて「楽しい」本でした。

「諸君、異論があるか。あればことごとく却下だ。」(本文より)

夜は短し歩けよ乙女 (角川文庫)

夜は短し歩けよ乙女 (角川文庫)