『ブラインドネス』

個人的には面白かったのだが、鑑賞後の明快な感想が見つからない。この監督、フェルナンド・メイレレスの作品はいつも感想に困る。
本作品にも当てはまることだが、彼の作品は善悪の境界が非常に曖昧であり、現代文明社会の中では非人道的とされる行為が、環境や状況によって簡単にその道徳観をひっくり返され、平然と行われる瞬間を描いていく。明解で揺るがない正義もなければ、完全な悪もない。善も悪も併せ持った人間しかいない。だから観ていて疲れるし、途中でたまらなくイヤな気持ちにもなる。
物語は結末へ向かうが、ジュリアン・ムーア演じる主人公にとって、その先の未来が明るいとは言い切れず、そんな作品の多重性も、鑑賞後の疲労感を増幅させている。
3カ国合作と規模は大きいが、本作品はインディペンデント作品として製作されており、ハリウッドを始めとするメジャー・スタジオは製作に関わっていない。だからこそ、これほど密度の濃い作品が製作できたのであろう。ちなみに日本の文化庁による助成金も出ている。
否定的な感想ばかり並べているようなので誤解のないように繰り返すが、個人的には面白かったし、作品としての水準は充分に高い。ただ、途中でたまらなくイヤな気持ちにもなる、そんな作品。


11月22日 公開
原題「BLINDNESS」
監督:フェルナンド・メイレレス
出演:ジュリアン・ムーア/マーク・ラファロ/アリス・ブラガ/伊勢谷友介/木村佳乃/ダニー・グローヴァー

【ストーリー】
ひとりの男が失明した。突然目の前が真っ白になり、視力を完全に奪われたのだ。そしてそれは悪夢の始まりだった。世界各国で同時発生した「白い病」は、爆発的な伝染力を持っていた。原因不明、治療法もない。これ以上の混乱を恐れた政府は、失明患者の強制隔離を始める。かつて精神病院だったという収容所に軟禁された患者の群れ。不安と恐怖、苛立ち、そして醜い争い・・・。秩序の崩壊した極限下で、彼らはその本性を次第にさらけ出していく。そして、その中に唯一「見える」人間が、盲人を装い紛れ込んでいた−。

配給:ギャガ・コミュニケーションズ powered by ヒューマックスシネマ
2008年/カナダ・ブラジル・日本合作/121分
(C)2008 Rhombus Media/O2 Filmes/Bee Vine Pictures.