『トウキョウソナタ』

 監督、黒沢清による初めての本格的な家族ドラマとのこと。
 家族四人、一緒に暮らしているが、お互いに違う方向を見ており、事務的な会話を重ねるだけで交流はない。そして、それぞれが家族に言えない秘密を抱えている。観る人によって感情移入できる登場人物は変わってしまうだろうが、香川照之小泉今日子が良い。
 小さな、もしくは表面化しなかった家族の不協和音は、物語の進展とともに深く大きな溝となって、かろうじて保っていた均衡を崩していく。その緊張がピークに達したある日、家族は誰も家に帰らずバラバラに夜を過ごす。正直かなり強引な展開である。そして、ドビュッシーの「月の夜」が流れるエンディングも、これまた豪快な力業であった。それぞれの夜を過ごした家族が再び「ここにいること」。そこには確かに監督の言う「理屈ではないある種の希望」が存在する。「理屈ではないある種の希望」とは、言いかえれば「地つづきのファンタジー」である。「ここではないどこか」を探すのではなく「ここかもしれないどこか」に希望を求めて世界と対峙していく。
 「どうやったらやり直せる?」と叫ぶ香川照之と「自分はひとりしかいません。信じられるのはそれだけじゃないですか」と語る小泉今日子、そして部屋でひとり無表情になにもない空間を見つめる小泉今日子の表情が忘れられない。


9月27日 公開
監督:黒沢清
出演:香川照之/小泉今日子/小柳友/井之脇海/井川遥/津田寛治/役所広司

【ストーリー】
舞台はトウキョウ。線路沿いの小さなマイホームで暮らす四人家族のものがたり。リストラされたことを家族に言えないお父さん。ドーナツを作っても食べてもらえないお母さん。アメリカ軍に入隊するお兄ちゃん。こっそりピアノを習ってる小学六年生の僕。ある日、家に帰ってみると中はごちゃごちゃで、誰もいなくなっていた。いったい、僕の家で何が起こっているのだろう?

配給:ピックス
2008年/日本・オランダ・香港/119分/カラー/ドルビーSR/ビスタビジョン
(C)2008 Fortissimo Films / 「TOKYO SONATA」製作委員会

トウキョウソナタ [DVD]

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