「アキレスと亀」

宣伝で謳われているような「穏やかな感動」はしなかったし、涙も頬を伝わらなかった。だからとて、嫌いな作品でもない。北野武作品特有の編集リズムも気持ちよいし、くだらないギャグもそれなりに楽しい。
売れない画家である主人公と、彼に寄り添い支えつづける妻の物語なのだが、その妻をはじめとする主人公の周りにいる女性たちが、男の勝手な幻想というか、理想でのみ描かれていて、それが「夫婦愛の物語」なのか?と首を傾げてしまう。
主人公の半生を、幼少期、青年期、中年期と3つの時間で描いていくのだが、それぞれの時代で主人公と関わる女性たちは、程度の差こそあれ、主人公に対して無条件に優しい。対して周囲の男性たちは、ごく一部を除いて、皆が主人公に対して冷たいのである。
作品は全く認められず、創作に対する確固たる信念もない。それでも絵描きとして生きていくという夢だけを目指して、ただ前に進んでいく。そんな主人公を受け入れる女性たちの中で、ただひとり、主人公を否定するのが高校生になる彼の娘である。そして彼女は、作品に登場する女性の中で唯一、主人公と血がつながっている女性でもある。この娘が登場するあたり、全て承知の上、計算ずくで描かれているのだろうと思えるが、どうしても手放しで楽しめないのである。こんな見方自体が男性的なのだろうか?
どちらかといえば好きな作品なんだけど、、、。


9月20日 公開
監督・脚本・編集・挿入画:北野武
出演:ビートたけし/樋口可南子/柳憂怜/麻生久美子/中尾彬/伊武雅刀/大杉漣/筒井真理子/円城寺あや/徳永えり/大森南朋

【ストーリー】
幼い頃から絵を描くのが大好きだった真知寿は、父の会社の倒産、両親の自殺、生活の困窮という辛い経験を経て、画家になることだけを人生の指針として生きるしかなくなってしまう。そして、ひたすら芸術に打ち込んでいくが、現実は厳しかった。そんな彼の前に現れた女性、幸子。―「私なら、彼の芸術、わかると思う」。彼女のその言葉は、真知寿に愛と希望を与えた。やがてふたりは結婚し、真知寿の夢は夫婦の夢

配給:東京テアトル/オフィス北野
2008年/日本/1時間59分/カラー/ビスタサイズ/ドルビーSRD
(C)2008『アキレスと亀』製作委員会

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