『イントゥ・ザ・ワイルド』

 ショーン・ペン監督の長編4作目となる本作だが、今までの作品とは少し雰囲気が違う作品となっている。これまでの作品のような張りつめた緊張感はなく、よい意味で落ち着いた作品。
 簡単にいってしまえば、「自分探し」に出た青年が、放浪の果てに、アラスカで餓死したという実話なのだが、結果として「死」へ向かう青年の物語にもかかわらず、作品はその隅々まで「生」であふれている。愛や金銭、名声よりも真理を求めて旅立った青年が、アラスカの荒野で孤独の中に見出した真理。彼の記した言葉が非常に印象深く、観る者の心を揺さぶる。
 要所要所で流れるエディ・ヴェダーによる音楽の、恥ずかしいくらいにタイミングのあった挿入の仕方や、スローモーションの使用など、ショーン・ペンのロマンティシズムあふれる演出は本作も変わらない。
 見方によっては非常に青臭い作品であり、彼の「若さ」を「軽率」と笑うこともできるだろうが、作品は彼を受け入れ優しく見つめる。1970年代後半から90年代初頭の先進国で思春期以降を送った世代に共通した感覚なのだろうか、豊かさの裏側にあるヒリヒリとした孤独や怒り、または諦めを抱えて、自身の身体感覚を頼りに、「ここではないどこか」にあるはずのユートピア(真理)を求める。アメリカン・ニューシネマの洗礼を受けた最初の世代に当たるショーン・ペンにはとてもリアルな感覚なのだろう。この後の世代はおそらく、身体感覚へは訴えない。怒りと諦めを持って自身の内側(もしくは室内)かインターネットを含む仮想現実へ向かう。今現在20代前半を過ごす世代がこの作品をどう観るのか、非常に興味を覚える。

9月6日 公開
原題「INTO THE WILD」
監督・脚本:ショーン・ペン
出演:エミール・ハーシュ/マーシャ・ゲイ・ハーデン/ウィリアム・ハート/ジェナ・マローン/ヴィンス・ヴォーン/ハル・ホルブルック

【ストーリー】
 1992年4月、一人の青年がアラスカ山脈の北麓、住む者のない荒野へ徒歩で分け入っていった。4ヶ月後、ヘラジカ狩りのハンターたちが、うち捨てられたバスの車体の中で、寝袋にくるまり餓死している彼の死体を発見する。彼の名はクリス・マッカンドレス、ヴァージニアの裕福な家庭に育ち、2年前にアトランタの大学を優秀な成績で卒業した若者だった。知性も分別も備えた、世間から見れば恵まれた境遇の青年が、なぜこのような悲惨な最期を遂げたのか?クリスは所有していた車と持ち物を捨て、財布に残った紙幣を焼いて旅立つと、労働とヒッチハイクを繰り返しながら、アメリカを北上し、アラスカに入ったのだった─。

配給:スタイルジャム
2007年/アメリカ/148分/35mm/シネマスコープ/ドルビーSRD/カラー
(C)MMVII by RIVER ROAD ENTERTAINMENT, LLC and PARAMOUNT VANTAGE, A Division of PARAMOUNT PICTURES CORPORATION

イントゥ・ザ・ワイルド [DVD]

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