『この自由な世界で』

 労働階級・失業者・移民(不法入国)など、一貫して弱者の視点から描いた作品を重ねてきたケン・ローチ。前作「麦の穂をゆらす風」の歴史大作から一転した本作も、移民への職業紹介業を題材にした作品。
 ただ、これまでの作品と違うのは、主人公が非常に能動的であり、自身の起こした事業を発展させるためには手段を選ばないこと。シングルマザーである主人公は、子供を両親に預けて働くが、転職を繰り返し、多額の借金も抱えていた。一念発起で始めた移民への職業紹介事業は、多少姑息な手段を執りながらも一応の成功を見せ、借金を返済、子供に高価なプレゼントを贈れるほどになる。しかしその裏では、違法だが儲けも大きい不法移民への職業紹介も行い、時には目的のために非情な手段を執ることもあった。「幸せに、なるために」他人を犠牲にしてでもお金を稼ぐ。彼女の行動による犠牲者から直接的な報復を受けることもあるが、それでも彼女は社会的な制裁は受けずに生きていく。
 作品は彼女を責めることも罰することもせず、父や友人を通して警告を与えるだけで、ただ彼女を見つめ続ける。もちろん肯定もしない。その視線の先にあるのは、70歳を過ぎたケン・ローチが抱く、現代社会と未来への危惧なのだろう。


8月16日 公開
原題「it's a free world...」
監督:ケン・ローチ
出演:キルストン・ウェアリング/ジュリエット・エリス/レズワフ・ジュリック/ジョー・シフリート/コリン・コフリン

【ストーリー】
一人息子ジェイミィーを両親に預けて働くシングルマザーのアンジー。仕事がうまくいったら息子と一緒に暮らすつもりだ。彼女は思いきって自分で職業紹介所を始める。外国人の労働者を企業に紹介する仕事だ。必死にビジネスを軌道にのせるアンジーだが、ある日、不法移民を働かせる方が儲けになることを知る。もっとお金があれば息子と暮らせる、もっと幸せになれる。彼女は越えてはならない一線を越えてしまう。そして事件が起こった...。

配給:シネカノン
2007年/イギリス=イタリア=ドイツ=スペイン合作/96分/カラー/1:1.85/ドルビーSRD
(C)Sixteen Films Ltd, BIM Distribuzione, EMC GmbH and Tornasol Films S.A. MMVII

この自由な世界で [DVD]

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