『アウェイ・フロム・ハー 君を想う』

 自室の棚にパッケージされたソフトとして所有し、数年に一度、ふとした時に観直したい、そんな作品。
 この作品の登場人物は悪人ではないが聖人君子でもない。そんな普通の、でも共に伴侶がアルツハイマーを患っている二組の夫婦のものがたり。とはいえ、多くの難病もの映画にあるような、無償の愛を描く美談でもない。
 受け入れなくてはならないアルツハイマーという現実と、病状が悪化していくという安易に容認できない現実。そして伴侶の記憶から自身の存在が消えていくことの孤独と寂しさは、過去の忘れられない記憶と罪悪感を内包して、主人公の自尊心を殺し、ある決断を促す。そうして起こした行動は、かりそめの欲望を生み、都合の良い解釈に誘われて道を見失う。そんな脆弱さが非常に「人間」っぽくて胸が痛くなる。
 それでも作品全体が湿ることなく、これほど魅せる作品になったのは、それぞれの役者を想定して脚本を書き演出したサラ・ポーリーと、俳優たちの品の良さによるのだろう。


原題:Away from Her
監督・脚本:サラ・ポーリー
出演:ジュリー・クリスティ/ゴードン・ピンセント/オリンピア・デュカキス/マイケル・マーフィー/クリステン・トムソン/ウェンディ・クルーソン
原作:アリス・マンロー「クマが山を越えてきた」(短編集「イラクサ」新潮社刊)
製作:ダニエル・アイロン/シモーン・アードル/ジェニファー・ワイス
撮影:リュック・モンペリエ
美術:キャスリーン・クリミー
音楽:ジョナサン・ゴールドスミス
衣装:デブラ・ハンソン

【ストーリー】
結婚44年目のグラントとフィオーナ夫婦は突然、予期せぬ事態に見舞われる。フィオーナがアルツハイマーだと診断されたのだ。フィオーナを献身的に支えるグラント。しかし彼女は、自ら老人介護施設で暮らす決意をする。そして1ヵ月後、面会を許されたグラントが目にしたのは、フィオーナが自分のことを忘れて、同じ施設で暮らす、車椅子に乗った男性オーブリーの傍らで恋人のように優しく世話を焼く妻の姿であった。フィオーナには、忘れたくても忘れられない苦い思い出があった。それは、グラントが大学教授時代に、女子大生と何度も浮気をしていたこと。だが、今は深く愛し合い、肉体的にも精神的にも満ち足りた毎日を送っていたのだ。愛妻に思い出してもらおうと、毎日施設を訪れるグラントだが、フィオーナとオーブリーの間に芽生えた愛情が日増しに深まっていくのを目の当たりにし、いたたまれない気持ちになる。

配給:ヘキサゴン・ピクチャーズ/アニープラネット
2006年/カナダ/110分/カラー/ビスタサイズ/ドルビーデジタル
(C)2006 The Film Farm/Foundry Films/pulling focus pictures Inc.

ミニパラ http://www.minipara.com/movies2008-2nd/away/

アウェイ・フロム・ハー 君を想う <デラックス版> [DVD]

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