『スルース』

 本作最大の魅力は、何と言っても、前作(35年前)で若い男を演じたマイケル・ケインが、本作で初老の推理作家を演じていることであり、ただそれだけでゾクゾクする。昨今よくみかける「ベテラン俳優が実子と共演しました」的な茶番とは全く違う、「作品」と「時間」と「役者」の在り方に感動するのである。
 原作が舞台劇であり、主人公二人のかけひきを中心とした会話劇であるため、字幕では伝えきれない、細かなニュアンスや行間の意味などが多く含まれていると思われ、もう一度観たくなる。
 設定やストーリーも前作と違う部分は多々あるのだが、何より一番違うのは推理作家ワイクの屋敷である。外観は築数十年はたっていると思える瀟洒な建物だが、内装は現代アート建築のようなメゾネットタイプに改装されており、青を基本とした原色の照明が室内を照らしている。室内装置はハイテク化されており、リモコンひとつで室内のあらゆる操作ができるようになっていて、さらに屋敷内の至るところに監視カメラが設置されている。
 こんな屋敷に住んでいること自体が不健全であり、本作における作家ワイクを良く表現しているのだが、同時に作品自体にも大きく貢献している。登場人物が二人で、しかもほぼ完全に室内劇である為、監視カメラのモニターや奇抜なセットデザインがマンネリ化する映像に変化(逃げ道)を与えている。ただ、少し「やりすぎ」にも思えるのだが・・・。

3月8日 公開
原題「SLEUTH」
監督:ケネス・ブラナー
出演:マイケル・ケイン/ジュード・ロウ

【ストーリー】
 ロンドン郊外にあるベストセラー推理作家アンドリュー・ワイクの瀟洒な邸宅に、招かれたのか、押しかけたのか、マイロ・ティンドルと名乗る若い男が現れた。
 ウオッカとスコッチで乾杯し、館内を得意顔で案内するワイク。
 「本題に入りましょう。なぜ奥さんと離婚しないのです?」
 ワイクの妻マギーは、若いティンドルと浮気をしており、ティンドルは、ワイクにマギーとの離婚を合意してもらうため、屋敷を訪れたのだ。ワイクはハンサムなこの若い男の要求を、すんなり満たしてやる義理はない。
 「君に提案がる」ワイクは用意していたアイデアを切り出した・・・。
 高貴で不健全なゲームの幕開けだった。

配給:パピネット
2007年/アメリカ/89分/スコープサイズ/ドルビーSRD
(C)MRC ll Distribution Company LP

スルース 【探偵】 [DVD]

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