『人が人を愛することのどうしようもなさ』

主演の喜多嶋舞の話題ばかりが先行しているが、まぎれもない「石井隆作品」である。
石井隆作品の、絶妙な構図、夜の雨、ネオン。それらを見ているだけでドキドキしてしまう。
物語の基本構造が主人公・名美の一人称である為、他者の視点はあまりなく、名美が精神的に追い込まれて堕ちていく過程と、その激しい性愛描写によって物語が進められていく。劇画を含む多くの石井隆作品同様、とてもせつない作品なのだが、物語の性格上、「せつなさ」に代表される感情はラストに集約され、その過程が描かれる場面は少ない。
できれば、冷たいナイフが肋骨の隙間からスーッと心臓を刺すような「どうしようもない」せつなさ、にあふれた石井隆作品を観たいと願う。

9月8日 公開
監督・脚本:石井隆
出演:喜多嶋舞/津田寛治/永島敏行/美景/伊藤洋三郎/山口祥行/中山俊/城明男/志水季里子/品川徹/竹中直人

【ストーリー】
 人気女優として活躍する土屋名美(喜多嶋舞)。だが私生活では同じく俳優の夫・洋介(永島敏行)と破局の危機を迎えていた。多忙を極める名美を横目に、下り坂の洋介は若い女優(美景)と浮気。その荒んだ生活は、長いすれ違いで心身ともに蝕まれていた名美をさらに追いつめていった。現在撮影中の新作『レフトアローン』では、夫・洋介が名美演じるヒロイン鏡子の夫役として共演。しかも、洋介の浮気相手の女優まで出演というスキャンダラスなキャスティングがマスコミの注目を集め、マネージャーの岡野(津田寛治)はその対策に忙殺されていた。そんな中、ひとりの編集者・葛城(竹中直人)が名美にインタビューを試みる。
 「映画『レフトアローン』…それは愛のない夫婦生活に絶望した女優・鏡子の切ない物語。俳優である夫の言葉の暴力、そしてたび重なる不倫…。耐えきれず電車に飛び乗った鏡子は車内で自らに下品な化粧をほどこし、ネオンの街角で声をかけてきた男たちに体を売る。それは自分を女として見なくなった夫への復讐か、それとも自分を取りもどすための女としての本能なのか?…」
 劇中の鏡子と自分を重ねるかのように、葛城に映画の解説をする名美。だがそこには…。やがて誰もが想像しなかった衝撃の結末が訪れる。

配給:東映ビデオ
2007年/日本/117分/R-18
(C)東映ビデオ

人が人を愛することのどうしようもなさ [DVD]

人が人を愛することのどうしようもなさ [DVD]