『シャッター アイランド』

マーティン・スコセッシ監督とレオナルド・ディカプリオ主演コンビ4作目。
多分にもれずスコセッシは大好きな監督なのだけれど、これまた多くの人たちと同様に、ディカプリオ主演の一連の大作映画はどうもイマイチ好きになれずにいる。別にディカプリオが嫌いなわけではないし、『ギャング・オブ・ニューヨーク』以外は映画として面白いと思うのですが「スコセッシ監督作」というだけでハードルが高くなってしまうのは確かですね。
で、今回の『シャッター アイランド』。この手のネタバレ厳禁映画は、根本的な部分で作品を語ることができないので困ります。正直それほどビックリするような結末でもないし、ほとんどの観客は物語の途中で結末の大きな部分には想像がつくと思います。


4月9日 公開
原題「SHUTTER ISLAND」
監督:マーティン・スコセッシ
出演:レオナルド・ディカプリオ/マーク・ラファロ/ベン・キングズレー/ミシェル・ウィリアムズ/パトリシア・クラークソン/マックス・フォン・シドー

【ストーリー】
ボストンの遥か沖合に浮かぶ孤島、"シャッター アイランド"。そこには、精神を患った犯罪者を収容するアッシュクリフ病院がある。1954年9月、連邦保安官のテディ・ダニエルズ(レオナルド・ディカプリオ)は、新しい相棒のチャック(マーク・ラファロ)と共にその島へやって来た。目的は、女性患者の失踪事件の捜査だ。患者の名前は、レイチェル・ソランド(エミリー・モーティマー)。3人の我が子を溺死させた罪でこの島に送られた彼女は、前夜、鍵のかかった病室から煙のように消えてしまったのだ。その姿は島内になく、島外へ脱出した形跡も見当たらない。いったいレイチェルはどこへ行ったのか?唯一の手がかりと呼べるのは、彼女が部屋に残した1枚の紙きれ。そこには、「4の法則」と題した暗号が記されていたが、それはレイチェルが狂っていること以外、何も語っていないように見えた。

配給:パラマウント ピクチャーズ ジャパン
2009年/アメリ

公式サイト http://www.s-island.jp/

この映画、本編が始まる前にいくつかのテロップが流れます。お決まりの「ラストをしゃべるな」という注意文の後に、錯覚に関するイラストが出て「人間の脳は自分の都合の良いように解釈する」という説明が加わります。この説明部分はおそらく日本独自のものだと思われます。私は「事実は存在しない。ただ解釈だけが存在する」というある演劇人の戯曲に度々登場するセリフを思い出しました。
本作品は物語の結末へ向けて映像的な仕掛けがとても多い作品なのですが、その仕掛けの多くはカメラが切り取るフレームや登場人物たちの仕草や目線などで表現されます。いわゆる物語の進行に従って回収されていく伏線ではなく、ごく小さな違和感と言った方が正確かもしれません。表面的な物語の進行とは別に映像として提示される違和感がほとんどで、観客はその小さな違和感を違和感のままラストまで積み重ねていくことになります。原作小説から削除された設定やエピソードもありますし、逆に原作小説では示されなかった映像イメージも追加されています。このあたりの取捨選択は「さすがスコセッシ」といったところでしょうか、映像作品としてきちんと昇華されていると思います。結末を分かっていて観ると少々大げさな部分もありますが。
ちなみに今回、通常の日本語字幕版とは別に、「超」日本語吹替え版というバージョンも公開されます。字幕を読む作業に囚われずに仕掛けだらけの映像に集中できるようにという目的があるようです。なにが「超」なのかというと、「翻訳的な言い回しを避け、違和感のない話し言葉にする」ために字幕翻訳者が吹替え版の監修も行う、とのこと。
あとこれはネタバレのさらにその先、本当の大ラスに、おそらく原作小説との最大の相違点となる「あるセリフ」があります。これは結構ズルイです。これがあることでさらにもう一層、物語が深くなっています。これもやはり「さすが」と言うべきでしょうか、非常に物語的な余韻を残すことに成功していると思います。
ここからはネタバレギリギリになるかもしれません。ディカプリオ演じる主人公は精神障害と診断された第一級犯罪者を隔離収容する孤島の中で「正常」である病院スタッフと「精神障害」患者たちの間で事件を追うことになる。その過程で「正常」と「異常」の境界が徐々に曖昧になってゆきます。このとき「事実は存在せず、解釈だけが存在する」のであれば、解釈のあり方に「正常」と「異常」の境界線が存在することになります。主人公は作中で幾人かの印象的な患者たちと接します。物語の発端となる失踪した女性は、自分が起こした事件を拒絶して、病院を自身の家と思い込むことで妄想の日常を過ごしていました。また長期入院患者で外の現実社会への復帰を恐れて入院生活を望む女性なども描かれます。登場する患者たちの中には「狂ってしまう」ことでしか生きてゆけない人々が確実にいます。そして「正常である」ことと「狂ってしまう」ことの間で苦しみ、その一方を選択せざるを得ない人もいます。本作品のラストに加えられたセリフは、そんなテーマらしきことも観客に投げかけます。それでもこの作品がこのテーマらしきものに深く言及しているわけではありません。あくまで娯楽作品なので、そんなことは全く気にせずに観ることができます。あくまで過去の「スコセッシ監督作品」を求めさえしなければ、エンターテイメント作品としては充分に一級品だと思います。

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